77、覚悟
「なるほど、そういうことなら納得出来る。試合から脱落した重症のホーリンは明日にはどこか別の病院に移送されているだろうし、試合期間中に会う機会はおそらく今夜を除いて他にはない。焦るのもよくわかる。ただし言っておくが危険な賭けだよ」
「これくらいの危険なんて今日一日の戦闘無限連鎖地獄に比べたら屁みたいなもんよ! お見舞いの唯一のチャンスでもあるし、私に約束してくれた彼女の男気……じゃなくって女気に答えてあげないとね」
私は燃えるようなホーリンの声を脳内に再現しながら答えた。
「中々お熱いね。確か病院カーには裏口があり、ドアの横のパネルにとあるパスワードを入力すると出入り出来るようになっているはずだ。皆には内緒だよ」
「本当にあんたよく知ってるわね! どんな人生送ってきたのよ!?」
「自分も以前の試合で色々とお世話になったことがあるんでね。入院して夜中に翌日発売の漫画雑誌のちょっとエロいやつがどうしても読みたくなったので、職員の様子を観察してマスターし、こっそり抜けだし気力と体力を振り絞って立ち読みしにコンビニまで出かけたことがあったのさ。帰院時にばれて散々怒られたけど」
「とても切実だけどアレな理由だな、おい!?」
「でも、侵入出来たとしても彼女のいる集中治療室っていうのは常時スタッフがつめている病棟だ。隙をつくのは非常に困難だよ。それでも行くのかい? 見つかると厄介だよ」
「構わないわ! こちとら天下の札付き悪役令嬢のセンナ・ニフレック・ピコスルファート様だっつーの! その程度の苦難くらいてんで楽勝よ! 死んでも行くわよ!」
波をザバンと立てて湯船から勢いよく立ち上がると、私は薄い胸を張って堂々と啖呵を切った。
「そこまで固く決心しているのなら止めようもなさそうだね。いいだろう、一度しか言わないけどパスワードを教えてあげるよ。でも、忠告はしたからね、やれやれ」
彼女はそう嘆息すると、愛の言葉を伝えるように、小声でそっと魔法の番号を吐露した。
すみませんがまた弾切れなので三日間休ませて下さい!次の更新は7月19日です!では、また。