76、理由
「あんた股ぐらや乳孔だけじゃなくて無駄に顔も広そうだし、何とかしなさいよ!」
「さらっとディスりながら無理難題を突きつけてくるね、君ってやつは……まあ、最近の医療技術の進歩は本当にすごいから、昔みたいに何時間も手術にかかることはないし、さすがにもう終わってそうだけど……」
彼女は壁にかかっている大きな丸い時計にちらと目をやった。時刻はやわやわ一時半に差しかかっている。
「すごいじゃないの! んで、今起きてるの?」
「残念ながら眠っていると思うけどね。もっとも麻酔はとっくに切れているだろうが」
「そうか……ところで警備が手薄な箇所は?」
「マジでやるつもり!? しかも非合法に!? 本当にあーばよーとっつぁんするの!?」
「別にお宝をいただきに参上するわけじゃないわよ! そして何事も緊急時は仕方ない場合もあるのよ! 世界の平和を守るため……もとい、私のため!」
だんだん自分でも何を言っているのかわからなくなってきたが、今は理性よりも感情で押し通すときだ。その方がうまく行くことが往々にしてあるのは経験済みだ。
「どうしてそこまで!?」
「私、実はホーリンとある約束をしたのよ……」
あの瓦礫が雨のように降り注ぐ中でのやり取りを一文字一句違わず思い出す。彼女は悲壮な悲壮な決意をかため、土下座しながらこう叫んだ。
「センナ・ニフレック・ピコスルファート! 今までの諍いは水に流して恨みも無かったことにするので、何卒我が友ルーランを助けてやって欲しい! この通りだ!」
そして私が、「えー……でもあんたたちって一応敵だし……」と返すと、次のように提案したのだ。
「何もゴールまで連れて行ってくれなくてもいい! 瓦礫をどかすだけでいいからお願い申し上げる! 更に条件追加として、万が一生き残ってこの後また会える時があれば、あなたの未来をもう一回無料で占おう! このレースで勝利につながるような占いを!」
私は包み隠さずそのことをバルコーゼに打ち明けた。どうせ配信で流れているし、内緒にしても無駄だけど。




