73、計略
「ええい、敵は何故幻術に怯えないんだ!? 狂っているのか!?」
男勝りで有名な幻の姫は、城の塔の一室から魔法攻撃を行っていましたが、あまり効果がないのにいらだちを隠せず、いくら突き落とされても城壁を這い登って来るアリの行列のごとき敵兵の群れに、逆に恐怖心を感じ始めていました。こんなことは彼女の人生においてかつてありませんでした。
「姫様! とうとう敵が城内に侵入してきました! どうかここは私と一緒に安全な場所にお逃げください!」
一人のメイドが姫の部屋のドアを勢いよく開けると、息せき切って呼びかけました。
「なんだお前は? 見慣れぬメイドだが……」
「この前採用されたばかりなんです! それよりも早く脱出を! 時間がありません!」
「そうか……仕方ない、一旦退いて立て直すとするか」
メイドの手を取ろうとした瞬間、幻の姫は凄まじい力で床に叩き伏せられました。
・ ・ ・
「ルーラン・モイゼルト君の実家のモイゼルト家は、ドパコール社や君の家ほどの名家じゃないけれど、それでもかなりの歴史ある家系でね。政財界などに数々の有名人を輩出してきたんだよ。だけど徐々に子孫は減って先細りになっていき、彼女の両親も結婚後十年以上も子宝に恵まれず、占いに頼って子作りするほどだったそうだ。
そして苦労の末にようやく産まれた可愛い一粒種がルーラン君なわけだが、宇宙腫瘍に罹患しているとわかってからはさあ大変ってわけさ。これで彼女がどんな気持ちでレースに挑んだのか、少しはわかるだろう?」
「なるほど……ってかあんた、よくそんな個人情報知ってるわね! 興信所でも雇ってるわけ!?」
「まあいいじゃないか、そんな細かいことは。ちょっとしたツテがあるだけだよ。そういう君だって彼女のことを『カウントダウンTVSEXNTRオホ声お嬢様』ってネット中に晒していたじゃないか。あれに比べたら僕の持ってる情報なんかまだまだだよ」
「それとこれとは別問題よ! ファック!」
私はこの場にアロエがいたら即止めたであろう汚い言葉でののしった。