7、最初の選択肢
紙吹雪と紙テープが舞う中、数十機の色取り取りのOBSがゲートオープン時の競走馬のごとくコロシアムを文字通り飛び出した。私も自機【ラキソベロン】の放熱板を兼ねた肩のウイングを開き、全魔動力バーニアを点火すると、華麗に出撃した。見る見るうちにスタート地点が遠ざかっていくが、沿道上はまだまだ見物客でいっぱいだった。
「今のところは参加者の皆さんお行儀よろしいですね」
副操縦席で手を振るアロエがまるで父兄参観日の保護者のような感想を漏らす。
「そりゃ周囲に観客がこれだけいればドンパチも出来ないわよ。VIP全員黒焦げじゃあ、せっかく勝っても無意味だしね」
脳髄デバイスを操りながら、私は返事をする。しかし結構本気出してスタートダッシュしたっていうのに、憎らしいことにトップ争いには負けている。
「さあいよいよレースが始まりました! 先陣を切って飛び出したのは数多くのSDAGで優勝を総なめにしたバルコーゼ選手です! 彼女の金色に輝く機体【アバロン】はその優雅な姿形から『迷宮の守護天使』とも呼ばれております! ああ、美しい……」
女性アナウンサーの黄色い声が、ちょっと偏った発言をしている。私の前方を行く、ケツと両足をこちらに向けた【アバロン】の姿は天使というよりも二又に分かれた特急列車だった。まあ、頭上の天使の輪っかが奴の専用ドローンという点だけは洒落てはいるが。
「あのすましたケツの穴にうちの【ラキソベロン】の右腕を突っ込んでフィ〇トファックしてやろうかしら」
「だから時と場所を考えて行動してください、お嬢様。撮影用のドローンも周囲にまだ多いですよ」
アロエの指摘する通り、四枚羽の大きなトンボみたいな機械がちらほらモニターに映り込む。確かにあれの目を盗んで悪さをするのは結構厄介そうだ。まあ、最悪相手を殺しさえしなければ良いとは思うけど。
ちなみにドローンは通常各機体ごとに一体ずつ自前でついており、うちにも蝙蝠型ドローンが一機つき従っている。私もいよいよ配信モードにした。もはや両サイドに観客の姿はない。
「お嬢様、そろそろ最初の分岐点です。いかがなさいます?」
アロエに言われて、モニター右上部にマップを呼び出し、前方に十字路があるのを確認する。今進んでいる巨大通路はかつて宇宙港として使われていた場所で、天井部分が透明プラスチックではなく白い壁状となっている。恐らく宇宙船との衝突を避けるためだろう。真空中では距離感をつかむのが意外と難しいと習ったことがある。
「どっちに進んだ方が早いの?」
人間だとバレるのを恐れているのかずっと押し黙っている脳みそ君に問いかける。
『直進スルノガ効率的デスガ、罠ガ多イト予想サレマス』
おっ、ちゃんと上手く片言喋りで答えてくれた。えらいえらい。
「どうやらそのようね……」
目を凝らすと、視線の遥か先にガッチャンガッチャンと音を立てながら不規則に開け閉めを行なっているシャッターが見える。シューティングゲームとかでよくあるやつだ。さて、どうしよう?