67、横やり
「一体何がしたかったんですの? 酔っ払いの入浴は禁止ですわよ」
「だからソフトドリンクすら一滴だって飲んでないわよ!」
1日に2回も同じことを言われると腹が立つとはよく言ったもので(厳密には前言われたのは前日になるけど)酒精の欠片も摂取してないのに私は全身を真っ赤にして怒鳴った。魔法が使えないのであれば、次の手は……。
「双方引け! グレースビット!」
突如全てを吹き飛ばすような威力の突風が浴室の入り口方向から発生し、熱気と混ざり合った熱風と化して私たち二人を襲う。これは……サウナ中にでっかい団扇であおぐ熱波とやらのサービスか? って違うわ!
「このどこぞで聞き覚えのある魔法は……ひょっとして泥棒猫!?」
振り返ると、あたかも王位争奪戦の読者応募で選ばれたキ〇肉マンのリングコスチュームのような変わった形の水着を着たバルコーゼが、右手を前に突き出し仁王立ちしていた。
「先ほどから様子を伺っていたが、公共の浴室内でみだりに攻撃魔法を使用してはいけないよ、お二人さん」
「「あんたに言われたくない!」ですわ!」
喧嘩している最中にもかかわらず、息を合わせたようにルーランと同時に突っ込んでしまったけど、これはどう見てもあのおせっかい野郎の方が悪いだろう。
「僕の場合は緊急措置的な仲裁のためだから別にいいんだよ。それよりも君たちは冷水シャワーでも浴びてじっくり頭を冷やすといい」
「フン、お気遣いは結構ですわ! 妾はもう充分入浴を堪能したのでお先に上がらせていただきますわ! それではご機嫌よう!」
そう言い捨てると、風で乱れた嵐の後の灌木のような髪を整えもせずに、ルーランは真紅の風呂セットを小脇に挟んで出口へと去って行った。
「やれやれ、せっかく戦闘中に仲直り出来たっていうのに、早くも元の木阿弥かい?」
「うるさいわね! くそ、何とかねじ伏せて、あの小生意気な乳首がどんな色に変色したのかをこの目で確かめたかったのに……」
私は歯噛みしながら遠ざかるルーランの背中を見送った。