65、湯気の向こう側
「しっかしここってやけに暑いわね~、お茶のペットボトルでも持ってくるんだったかしら?」
まだ湯船に足先すらつけてないのにむせかえるような熱気を肌に感じて、私は左手を団扇代わりにパタパタあおいだ。サウナ室のドアでも開いているんだろうかと辺りを見渡すも、そんなものはどこにもなかった。ただし、壁際のシャワーコーナーから活火山の山頂のようにひときわ湯気がモクモク発生している箇所があるのを発見した。
「誰よ一体!? ひょっとして浴場内で焼き芋とかやってる馬鹿がいるわけ!?」
頬をぷんぷくりんに膨らませて、私はのしのしと大股でタイルの上を歩き、火事場検証としゃれこんだ。
「ん? あれは……」
湯気のカーテンの隙間から、どこかで目にしたような赤毛がシャワーを浴びている姿がちらちらと覗いているのを目撃して、私は犯人が誰であるかを確信した。
「ルーラン! あんたこんなとこで何やってんのよ!? てかゴール出来たんかい!」
なんとルーランは、シャワーの温度を限界以上まで上げ、さらにあたかもサウナストーンにアロマ水をかけて蒸気を生じさせるがごとく、火炎魔法で自分の座っている周囲のタイルをガンガンに熱してシャワーをぶっかけ、つまりは自己流のロウリュウを行なっていたのだ。
「あら、お久しぶりですこと、センナさん。スクール水着がよくお似合いですわよ」
そう挨拶する彼女の方はというと、フリフリのいっぱいついた真紅の薔薇をあしらったデザインの上下のビキニスタイルで、発育の良さを存分にアピールしていた。
「別にいいでしょ! これしか持ってきてなかったのよ! それよりも本当に何やってんのよ!?」
「何と申されましても、妾は我が家に伝わる熱に耐える修業を日課としており、これもその一環ですわ。これくらいしないといつも入浴した気になれませんわよ」
「家でやれ家で! うがああああああああああ!」
とうとう我慢できずに私は宇宙に向かって吠えたてた。