64、宇宙ノ湯
「あーっ、最高ねーっ! やっぱり疲れた後の風呂っていいわよねー!」
青いスクール水着を着用した私は、もうもうと湯気の立ち込める広大な浴場で、ベタなセリフだけど思わず歓喜の声を上げた(まだ浸かってないけど)。
ちょっとした体育館くらいありそうな浴室の天井は透明な硬化プラスチックで覆われており、その向こう側には宇宙の深淵が果てしなく広がっていた。これだけ豪勢な施設はコロニーでも中々無いだろう。しかもドパコール社がグレートフォールの真上に突貫工事で造らせたとの噂だ。つまりここは、第一日目のゴールのホールに特別に設けられたスーパー銭湯なのである。
なお、使用できるのは大会関係者だけであり、混浴なので水着着用が義務付けられているのだ。
「んな話聞いてないわよ! どーすんのよ!?」
張り紙を見て私は焦るも、すげえ用意周到なうちのスーパーメイドが、「こんなこともあろうかと持参してきたのでご安心ください」と学園指定の水着をコックピットの後ろから取り出したので、なんとか事なきを得ている。
時刻はとうに一時を回っているが(ゴール後の手続きやらパージした外装の回収の申し込みやらなんやらで非常に手間取った。ほとんどアロエがやってくれたが)、レースで疲労困憊で汗だくの身体を清めるには、マイクロバブルやウルトラファインバブルとやらが吹き出るアロエがお勧めの人間洗濯機なんぞよりも、やはり古来より伝わる湯あみに限るだろう。ちなみにレースの順位について怖くてまだ見ていない。今日はもう充分だ。
本当はすぐにでもお布団に飛び込みたいところだったが、宇宙が眺望出来るまるで露天風呂みたいな浴室というのは未体験だったので、カフェインを注入して気合いを入れ、お風呂セットを持参した、というわけだ。なお、アロエはやっぱりというか人間洗濯機の方を取った。別にいいけど……。
「それに自分には物見遊山したりくつろいでいる暇などありません。外装の再装備や破損個所の修理、部品交換、機体の点検など、やるべきことは山ほどあります。ていうか徹夜覚悟です」
まるで戦場に赴くような悲壮な表情で彼女は述べた。かわいそうに……嗚呼。