62、シンデレラ・ロード
「よーし、これでだいぶ身軽になったわね!」
私は一瞬顔をほころばせかけるも、まだまだ満足にはほど遠いことに気づいた。さて、どうする?
「ええい、この速度じゃ間に合わないわ! 一旦下に降りるわよ!」
「どどどどどどうなさるんですかお嬢様!?」
「こうするのよおおおおおおおおおおおおおお!」
私は【ラキソベロン】を着地させると、その大木のように太い二本の足を交互にガションガションと動かした。黒い悪魔はそのまま宇宙の彼方に飛び出していくかのように走り出し、白亜の通路の風を切る。残り時間は後30秒。
「お嬢様! 両腕の動きが一緒になっていますよ! 交互に振るようにしてください! 接地点をもっと前にしてストライドを広げて! 後、身体が前に傾き過ぎです! 背筋を上にシャキッと真っすぐ伸ばして!」
「んなこと言ったってこっちは陸上初心者なんですけどおおおおおおおおおおおおお!」
文句をぶーたれつつも鬼コーチの熱心な指導に従い、ヒールストライク走法だかなんだかで機体をグリグリ操縦する。でも、おかげでフォームは見違えるように矯正され、スピードもぐんと速くなった。
「よーし、弾丸ダッシュでゴールテープを切るわよ! 行っけえええええええええええええええ!」
どうせ泣いても笑ってもこれで終わりだと思うと、さっきまでの眠気も疲れも嘘のように吹っ飛び、気分が異様に高揚してくる。これがいわゆるランナーズハイってやつなのだろうか? って実際に自分が走ってるわけじゃないんだけど。
ゴールの巨大ホールは瞬くうちに接近し、深夜にもかかわらず大勢の人々が詰めかけているのがよくわかった。おそらくあの中にこの配信を見てくれている人もいるのかもしれない。そう考えるとほんの少しだけ胸が熱くなった。まあ、母乳好きだけはいらんけど。
「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオル!」
私は獣のように咆哮しながら光の渦の中へと飛び込んでいった。
『88888888888888888888』『うおおおおおおおおおおお』『母乳母乳母乳母乳母乳母乳母乳母乳母乳母乳母乳母乳』
コメントも珍しく祝福(?)の嵐だった。