60、駆け引き
『昔の南極越冬隊が持って行ったのって足がない弁天様タイプだっけ?今じゃ越冬隊員どうしてるんだろうな……?』『さあ……地球のことはよくわからないけど、確か南極大陸上空には巨大なオナホールが開いてるそうだから、大丈夫なんじゃないの?』『それオナホールじゃなくてオゾンホールだよ!てかどんだけでかいんだよ!?』『TENGA呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ!』『うるせえよ!ところで南極一号ってエヴァンゲリオンに出てきたセカンドインパクト起こしたやつだっけ?』『お前の方がうるせえよ!ところでどこぞの村で村おこしのためにダッチワイフを抱いて川下りをするアレな祭りがあるって本当?』『それよりも妊婦タイプのラブドールは売ってないんでしょうか母乳!?』
「ああああああ嗚呼……予想通り画面がクソコメントでいっぱいだわ!」
私は戦闘中にもかかわらず、天を仰ぎそうになった。てかこいつら寝る気ゼロだな!
「お嬢様、そんなことよりもラブドールなんぞでは目くらましにもなりませんよ。SFじゃダッチワイフがSEX中に暴走して人間を殺すってのは割とよくある話ですが、現実だとちょっと厳しいかと……」
「あんたまでコメントどもと似たようなこと言わないでちょうだい! こっちにだって考えがあんのよ!」
『アレノドコニ!?』
ついに脳みそ君まで突っ込みに参加してきやがった。お前さっきまで熟睡してたくせにうるせえ。
「そりゃ目くらましにはならないかもしれないけど、いい時間稼ぎにはなったはずよ、ほら」
私は親指でバックモニターを指さす。そこには、背後から猛追撃をかける紅蓮の矢が映っていた。
「ま、まだ何か切り札があるのかよ、てめえ!?」
ヌルヌルとまとわりつくラブドールを触手で払いのけながら、メマリーが不良らしからぬ怯えた声を出す。どうやら、あの腐った半熟卵レタスサバサンドに当たった時のトラウマでも頭をよぎったのだろう。しめしめ、心理戦ならこっちのもんだ。私は密かに蛇のように舌なめずりした。