6、スターティングゲート
「……というわけで、ルール説明に移らせて頂きます。では頭上をご覧ください」
高級スーツに身を包んだオールバックの初老の男性ことチガソン氏が上空を指し示す。途端に天井の宇宙窓が巨大モニターに変化し、黒い丸を中心に大きさの異なる同心円が3つ描かれた図が映った。このコロニーの者なら誰でも知っている有名な図だ。
「ご存じの通り、マグコロールコロニーは中心部のマグコロール隕石を中心として3重の人工のダイソン球に囲まれております。おっと、ダイソンといっても掃除機じゃありませんよ。さて、現在我々がいるのは第三層の最外層であり、ここから下に進むに従って第二層、第一層となります。当レースにおきましては、参加者の方々には様々な難関を突破し、最下層の第一層部に儲けられた最終ゴールを目指していただき、かかった合計時間を競い合います。
もちろん機体同士のバトルも有りです。相手の命を奪うのは法に触れるのであまりお勧めしませんが、反撃などでやむを得ない場合もありますし、電波状況の悪いところでこっそりやる分には放送にも映らないかと思います」
そこで観客たちは乾いた笑い声を発した。いまいち面白くない。
「同乗者はパイロットの他はもう一名のみであり、栄誉ある一位の選手には、賞金の100万マグコロールゴールドの他、無料で宇宙腫瘍の最新治療を受け、子供を授かるようになる権利が与えられます。ですが二位以下の方にも特典がありますから、皆さんあきらめずにチャレンジしてください」
要は出場者は皆宇宙腫瘍患者ばかりということだ。それは気合いも入るだろう。会場内に殺気が満ち満ちており、私はコックピット内だというのに肌が痛くなってきた。
「各層ごとにスタートとチェックポイント、そしてゴールがあり、ゴールを通過した時点でその日は一旦終了となり、翌日の試合再開までその地点で休んでいただきます。また、コースの途中に試合展開を有利に運べる便利アイテムも各階層に一つずつセットされておりますので、出来るだけゲットしましょう。なお、ゴールの期限はそれぞれ日付の変わる0時ちょうどとします。さあ、皆さん張り切ってシンデレラを目指しましょう! でも気がついたらいつの間にか死んでれらーではダメですよ!」
「ぐああああああああこいつのギャグセンス一々イライラするわ!」
『お前だって似たようなもんだろうが……』
「なんか言ったか腐れ脳みそ野郎!」
『イエ、気ノセイカト思ワレマス』
「お嬢様、そろそろスタートですので準備してください」
「わかってるって、アロエ!」
というわけで私は気持ちを切り替えると意識を会場に集中した。人々の熱気は今や最高潮に高まり、皆固唾を飲んでいる。いよいよ待ちに待った運命の時だ。
「それではスタート! グッドラック!」
主催者の声と同時に号砲と大歓声と拍手と魔動力エンジン音が大海嘯のように会場内に沸き起こった。