56、条件
「致し方ないか……背に腹は変えられん」
相変わらずどっちが前だか後ろだかわからないが、【プロベラ】はこちらを振り向くと、なんと床に伏して土下座した。
「お嬢様! 魔動力なんてもうほぼすっからかんだったんじゃないんですか!? 何重力魔法なんか使ってるんですか!?」
「そんなわけないじゃない! あいつが勝手に自主的にやってんのよ!」
言い合っていると、ホーリンは機体をうつむかせたままかつてない大音声で呼ばわった。
「センナ・ニフレック・ピコスルファート! 今までの諍いは水に流して恨みも無かったことにするので、何卒我が友ルーランを助けてやって欲しい! この通りだ!」
「えー……でもあんたたちって一応敵だし……」
「何もゴールまで連れて行ってくれなくてもいい! 瓦礫をどかすだけでいいからお願い申し上げる! 更に条件追加として、万が一生き残ってこの後また会える時があれば、あなたの未来をもう一回無料で占おう!このレースで勝利につながるような占いを!」
「うっ」
かなり魅力的な申し出を受けて、私の心はぐらついた。彼女の能力はやや波はあるが強力であることは疑いない。ここは一つ、大人になって話を呑んでも損はないだろう。
「わかったわ、ホーリン。でも現在今にも突撃してきそうな貨物船はどうすんの? 作業中にドシンと来たら一巻の終わりよ!」
「そこはぬかりなく考えてある。お任せあれ!」
時代劇的な言い回しで返しながら【プロベラ】が土下座体勢から起き上がると、なんとそのクラゲの傘を更に更に大きく広げ、天井に向かってフワフワと上昇していく。まさか……。
「まさかあんたがあれを受け止めるつもりなの!? そんなの無茶よ!」
「まだやってもいないのに結論づけるものではない。この機体は攻撃力はほぼない代わりに、防御機能においてはトップクラスを誇る特殊仕様だ。では、後は頼んだぞ!」
その時再び爆音がとどろき、天井や外壁が砕け散るとともに空が落ちてきた。