55、目覚めの時
「きゃあああああ!」
外壁の大きな塊が【ザジテン】を襲い、ピンキーステッキを直撃する。慌てて手放すも邪悪な杖はボッキリと真っ二つに折れ、無骨な機械部分がむき出しとなった。途端にマジカルステッキから放出されていた睡眠波が途切れ、まるで冷水でも被ったように急速に眠気が引いていく。今が最大のチャンスだ。
「アロエ、脳みそ、二人とも起きなさい! ウェイクアップピーポーもといウェカピポの妹の夫!」
「相変わらず意味不明ですがとうに目覚めておりますお嬢様!」
『自分モ起キテマス! マダヤレマス!』
「よし! 今から最大限に身をかがめて、瓦礫を避けつつ通路を突っ切るわよ!」
「でも、あの落下してきた宇宙船はどうするんですか!? 現在外壁とぶつかってかろうじて踏みとどまってますけど、通過するまで待ってくれないかもしれませんよ!」
「その時はその時よ! こんな状態から入れる保険もあるはず! 何とかなるって!」
「まったく、無理無茶無謀の三無主義なんですから……まぁ、現状それしか手はありませんしね。いいですよ、覚悟を決めましょう」
アロエは頭を抱えるも、渋々納得してくれたようだ。
一方相手方はどうかと言うと、こちらより追突現場に近いせいか絶賛瓦礫の雨にさらされ、大ピンチを迎えている模様だった。特に【ザジテン】は瓦礫の山に半ば埋もれて脱出も困難な状態であり、【プロベラ】が必死に触手を動かして除去しようと努めているが、非力なためか、中々思うようにいかない様子だった。
「ホ……ホーリン、妾を置いて先に行って! もう時間が5分もない! あなたまで一緒に失格になる必要はない!」
ルーランがお嬢様言葉も忘れて悲痛にうめく。しかしそばにただよう巨大クラゲは言うことを受け入れなかった。
「何を気弱なことを言う。共に戦った戦友を見捨てることなど出来るものか! それに君は世継ぎを生んで家系を存続させるため、勝たねばならないんだろう!?」
「でも、貨物船が……あああああああああああああああ!」
その時、遂に限界を超えた外壁の亀裂が見る見るうちに広がり、蜘蛛の巣状になった。