53、終末のラッパ
「……そうか、自分の杞憂であればいいのだが」
「そんなに気になるのなら、得意の魔法で未来を見てみればよろしいのでは?」
「あいにく先ほどの使用で今日の予知魔法は打ち止めだ。なんにせよ忠告はしたぞ」
このお嬢様はすぐに感情的になるのが問題点だな、と言わんばかりのあきらめ声で、ホーリンは会話を打ち切ると、自分の殻に閉じこもった。いや、殻というよりは傘の中か。
しばしの間無音の膠着状態が続き、黄金のように貴重な残り時間が無駄に過ぎていく。だが、意識もうろうとしながらも、私の心は絶望を受け入れず、むしろ勝利への希望に満ち満ちていた。
「……もうそろそろゴールせねば、我々も危ないぞ。わかっているだろうな?」
「まだもう少しは大丈夫ですわ。それにしてもしぶといですわね。いい加減夢路に旅立ちなさいませ!」
未だに眠りの海に没しない私に業を煮やしたルーランが声を張り上げるも、徒労に終わった。
「さすがにおかしくないか? どうしてこやつらはあきらめないのだ? ひょっとして……」
疑問に感じたホーリンだったが、突如何かに感づいた様子で声色が変わる。そのままゴソゴソと何かを調べ出したようだったが、もはやどうしようもないだろうと私は半分眠った脳みそでうつらうつらと思索した。既に種は撒かれた。後は刈り取るだけだ。
「ど、どういうことですの!? 何かあったんですの、ホーリン!?」
「しまった……何ということを企んでいたのだ……恐ろしい……すぐにその場から逃げろ、ルーラン!」
大声で警告を発するも、【ザジテン】はピクリとも動かない。否、動けないのだ。
「ええっ!?そうは言っても今離れたら睡眠波の効果が切れてしまいますわよ!?」
血相を変えたホーリンときょとんとした表情のルーランの顔が目に見えるようで、私はつい笑いそうになってしまった。いよいよ天使が終末のラッパを高らかに鳴らす時が来たのだ。
「そんなものはどうでもいいからとっとと……!」
その続きは言葉にならなかった。