52、睡魔
「お、お、お嬢様……ど、ど、どうな、さいま、すか……?」
限界が近いのだろう、アロエの声にいつもの凛とした張りがない。
「あんた、やっぱりこんな時でもそればっかりね……ちったあ考えなさいよ……んで、どうするかってぇ?そんなの決まっとるでしょうがあああああ! 死ね! ドネペジル最大出力ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
息絶え絶えの青息吐息状態だけど、私は全身全霊を振り絞って本日最後の呪文を詠唱する。猫背になってふらふらと酔っぱらいみたいによろめく【ラキソベロン】がそれでも手にする黒剣ジクアスがコロニー中を揺るがすかのようなうなりを上げて振動し、増幅された最大級の重力魔法を相手にぶっ放した……と思いきや、ふらつき過ぎて剣先が明後日の方向を指し、魔法は天に向けて打ち上げられた。そう、敵二人ではなく、宇宙窓の彼方に。
「……ふざけておいでですが? それとも手が滑ったんですか?」
魔法少女のごとくピンク色のゴージャスなステッキをまだかざしている【ザジテン】の内部で、ルーランが怪訝そうにつぶやく声が魔動力通話を通して耳朶を打つ。
「こ……これは……その……酔拳の一種よ……ヒック」
「お嬢様……お酒なんて一滴も飲んでないではありませんか……」
この期に及んで突っ込んでくれるアロエの甲斐甲斐しさにはあくびじゃなくて涙が出そうになる。
「どちらにせよ、無様ですこと。もう少し骨があるかと思っておりましたが、どうやら買いかぶりだったようですわね」
「油断するな、ルーラン。実は彼女の配信動画をさかのぼって視聴してみたが、意外とクレバーな戦術を取っている。それは一度矛を交えた身として、あなたもよくおわかりのはずだろう」
「そ、そんなに賢い相手ではないですわ! あんなのたまたまですわよ! それに今回は前半はしてやられましたけど、後半は結局こちらの策略通りではありませんか!?」
決めポーズの恰好で固まりながらも、ルーランはホーリンの意見に猛抗議をぶちかました。