46、記憶の扉
(ああああああ……!)
忘れていた何かが、内側から蓋をこじ開けて顔を出そうともがいている。あと少し、もう少しで何か大事なことを思い出せそうなのだが……。
(そういえばさっきアローゼンのやつが、『……イヤ、ヤッパリイイデス』って何かを言いかけてやめたわね。ひょっとして、ひょっとすると……)
その瞬間、私の脊髄に電流のようなものがつま先から頭のてっぺんまで流れ、全身を貫いた。
(こ、これは、まさか……!)
身体はコックピットの中にありながら、私の脳内には、あのデートの日の風景がまざまざとよみがえっていた。あの橋の上の薄暗い小屋の中で、私は彼と一緒に椅子に座り、あの人物と対峙していた。黒いローブと白い仮面を身につけた人物と……。
「わかったわ! あんたあの占いの館の占い師だったのね! そうでしょう、ホーリン!?」
私は、というか【ラキソベロン】は人差し指をビシッとエチゼンクラゲ野郎に向けて突きつける。あの時はボイスチェンジャーで声を変えていたけど、抑揚の付け方や間合いの取り方などの話し方が、今思えば彼女そっくりだったのだ。また、占い師の背丈や格好もクラスでみかけたホーリンと同じくらいだったはずだ。
(それに……)
それに、よくよく考えると未来予知能力なんて国宝級で超貴重な能力の持ち主がそんじょそこらにゴロゴロいるわけがない。要は彼女は自分のその唯一無二に近い特殊能力を用いてこっそりバイトに励んでいた、というわけだ。
アローゼンもそのことに気付いたが、あの場面で言うと自分が培養脳髄でなくて元人間だとばれるから、私に処分されることになるのを恐れてだんまりを決め込んだんだろう。うっかり過ぎる……。
「やっと思い出したのか、センナ……お前のせいで、あたしがどれほどひどい目にあったことか……今こそその身に思い知らせてやる……」
まるで地獄の底から吹き上げる瘴気のようなどす黒い声で、ホーリンが答える。それはまさにボイスチェンジャーを使って変声した電子音と、奇しくも非常によく似ていた。