44、大地の魔法
「ちょっと、どうするのよ! このままじゃ焼け死んじゃうわよ!」
今にも降り注がんとしている火の玉のシャワーを頭上に見上げて、お姫様は叫びました。
「そう慌てなさんなって。あんたはいいもの持ってるじゃないですか、お姫様」
「ええっ!? 別にそんなにないすばでぃーじゃないわよ!?」
「誰もんなこたぁ言ってねーよ! 魔法だよ魔法! あんた王家に伝わる大地の魔法が使えるんでしょーが!」
「ハッ、そういえばそうだったわ!」
というわけでお姫様は大地の魔法を詠唱したところ、なんと海面から大量の海水が天に向かって引き上げられ、迫りくる火の粉を全て消し去りました。
「何ですってぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
更に荒れ狂う水流は城塞目がけて襲いかかり、城壁にいた焔の姫を問答無用で押し流しました。
・ ・ ・
私の投げた名付けて大リーグボール1号じゃなくて巨大爆弾宝箱ボールは、でかいスピードガンがないからわからないけど多分時速160キロ以上の速度で【ザジテン】目掛けて飛鳥のごとく襲いかかる。
「避けて!」
背後のホーリンのアドバイスも虚しく咄嗟のことに赤い機体はわずかに身体を捩っただけだったが、そのおかげで何とか胴体直撃は免れた。ただし、殺人L字ボールじゃなくて宝箱は、【ザジテン】の右腕の肘関節部に激突した衝撃で蓋が開いたため、トラップが発動して大爆発を起こした。
「ぐがああああああああああ! ですわ!」
右肩近くまで機体が破損した【ザジテン】は、それでも機動力は失われておらず、大きく後退して一旦体勢を整える。しかし奴の主武器のメイスはちぎれ飛んだ前腕ごとこちら側に吹っ飛んできた。よってこれ以上あの厄介な火球魔法に悩まされることはないだろう。
「くそっ、後少しでストライクだったのに! ま、腕に当たっただけでも儲けものよね!」
「お嬢様、僭越ですが、それはいずれにせよストライクではなくデッドボールで一塁進出です」
「何でもいいわよ! 雰囲気の問題よ!」
無粋に突っ込まれた私は怒鳴ってごまかした。