43、野球
『ソウ、ソシテ……』
彼女の次句を脳みそが受け継いだので、私は何事かと身構えた。今まであまりなかったパターンだ。
『……イヤ、ヤッパリイイデス』
「もーっ、期待させといて何なのよ!」
急に尻すぼみに終わったので、私はずっこけそうになった。
「まぁ、脳みそ君は置いておくとして、逃げ回っているうちに一つ策が閃きました。相手の能力を逆に利用してやるのです。所詮完璧な能力などありませんし、あればこちらはとっくの昔に火だるまですから」
「えっ、どういうことよ、アロエ!? そんな芸当出来るの!?」
「大丈夫です、お嬢様なら必ずお出来になります」
アロエはいつの間にかしかめっ面からいつもの自信に満ちた顔つきに戻っていた。彼女の説明を聞いた私は、その斬新かつ皮肉の利いたアイデアに感銘を受けた。
「よし、そうとわかったら反撃開始よ!」
「何やらずっと相談されていたご様子ですが、今更どうしようも出来ませんわよ! 食らいなさい、スルピリド! スルピリド! スルピリド!」
わざわざ魔動力通話をかけてきたメマリーが、馬鹿の一つ覚えとやらで再び火球を撃ち続けてくる。以前よりも精度が高いのが厄介だったが、なんとか命中は免れた。そして、ついにチャンスが巡ってきた。ある地点に私たちが移動した瞬間、やつの機体がこちらの足元にメイスを向ける。早速例の作戦を実行する時が来た!
「そうはさせるか! ドネペジル!」
私は相手の火球が撃ち抜くと予想される宝箱に向け、素早くジクアスを構える。たちまち赤と金の箱は床から浮き上がり、【ラキソベロン】の左手にすっぽり収まった。もちろん相手の火の魔法は当たらず、床を焦がしただけに過ぎなかった。
「さーて場内アナウンス頼むわよ、アロエ!」
「お任せください。『さーて、ピッチャー大きく振りかぶって第一球投げましたー!』」
「行っけえええええええええええええ!」
あまり振りかぶってないにもかかわらずアロエアナがかなり適当な喋りをしている内に、私は豪速球で手にした宝箱を【ザジテン】目掛けてぶん投げた。