38、火球再び
「……あなたに覚えがなくても、こちらにはある」
その時ホーリンが初めて会話に参加してきた。まるで電波の悪いラジオから聞こえるぼそぼそ声だったが。
「えーっ、人違いか逆恨みじゃないの? アロエ、身に覚えがある?」
「何故自分に振るのか理解しかねますが、欠片も微塵もプランクトンもございません、お嬢様」
ミニスカメイドもこの時ばかりは心外だとばかりに完膚なきまでに全力で否定した。さよか。
「問答無用! さて、時間も押していることですし、いざ尋常にひと勝負参りますわよ! 覚悟なさいませ! スルピリド! スルピリド! スルピリド!」
しびれを切らしたルーランが、相変わらず馬鹿の一つ覚えの火球連発攻撃を仕掛けてくる。
「やれやれ、芸がないわね。そんなんじゃ一芸入試にも引っかからないわよ。まさかカウントダウンTVSEXで受かるつもり?」
「しつこいですわあああああああ! スルピリドぉぉぉぉぉ!」
いくら相手が吠えようとも、もちろんそんなへっぽこノーコン火球にあまたの戦闘で勝ち進んで経験豊富な(四時間ちょっとだが)この私が当たるわけもなく、まるでダンスでも踊るように優雅に空中ステップを踏んでかわしていく。ただし、前回よりは精度が若干上がっている感じがしたが、相手も多少はレベルアップしたのだろうか。
「いくらやってもそれこそ時間の無駄よ。出直してらっしゃい!」
「くっ、ならばこれはどうでしょうか!? スルピリド!」
何故か奴が火球を一発私の、っていうか【ラキソベロン】の足元に向けて打ってくる。もちろん、そんなものわざわざ避けるまでもないことだが……。
『危ナアアアアアアアイ! 回避セヨ!』
「な、何よ、突然?」
脳みそが水槽が揺れそうなほど絶叫するので、何だかよくわからないが、私もつい勢いにつられて、とりあえずその場から数歩動いた。
と、同時に、ドゴオオオオオオンという爆音と共に凄まじい火力の火柱が床から燃え上がり、私の直前までいた空間を盛大な焔と煙で包み込む。
「な……ななななななななななななななな!?」
言葉を失った私は、衝撃のあまり操縦も忘れて火の柱を凝視した。