37、火炎の王国
巨大悪魔と一体化したお姫様は、蝙蝠に似た背中の羽根を広げて海上をまっしぐらに飛んでいました。火炎の王国はお姫様の住む大地の王国から海岸沿いに進んだところにあるのです。
「見えてきたわ! 敵の城よ!」
「早くも敵認定とはやるじゃないか、お姫様! さすが俺が見込んだだけはあるぜ。兵隊の姿は今のところないようだが……ん?」
「あれは……焔の姫!?」
その時お姫差は悪魔の目を通して、海に面した城壁の上にただ一人佇む真紅のドレス姿の女性を発見しました。そう、彼女こそが火炎の王国のお姫様、焔の姫だったのです。
「よく来たわね、侵略者さん。そんな大きな姿で飛んでいたら、バレバレですわよ。あなたには軍隊なぞ必要ありません。私一人で充分です!」
そう高らかに宣言すると、彼女は火炎魔法を唱えました。
・ ・ ・
「てかあんた、さっきはメメタアしてあげたら種付けプレスされたみたいになってたのに、よく私を追い越せたわね。速度違反でもしたってわけ?」
私は奴を煽りつつ、コックピットの窓を開けて習字の半紙をこれ見よがしにヒラヒラさせてやった。ただし彼女はこれ以上の挑発には乗るまいとばかりに、鷹揚に構えていた。
「フン、もはやその手には乗りませんわよ。何を隠そう、あなたに恨みを持つこのお方が妾を助けてくださったんですわ。それではご紹介しましょう、ホーリンさんと、その愛機【プロベラ】です!」
ルーランの操る【ザジテン】が、その無骨さには似合わぬ優雅な動きで背後のクラゲ型OBSの方に腕を差し出し、芝居がかった仕草で一礼する。どうやらクラゲからは触手が伸びているようで、先ほどのサイコロ野郎を想起させた。っていうか、ホーリンって確か……。
「思い出したわ! うちのクラスの隅っこの方にいた、負けヒロインみたいな青髪ショートカットの、地味な雰囲気の女の子でしょ!? 悪いけど私、その子なんかに興味ないし、恨まれるようなことをした覚えもないわよ」
その時、フワフワと浮かんでいた巨大クラゲの動きがピタっと止まり、こちらを見据えた……ような気がした。あまり軟体動物好きじゃないんだけど……。