35、宝箱
赤く塗られ金色に縁どられたそれは遠くからでも目立ったが、宝箱といっても人間が扱うようなサイズのものではなく、一辺3~4mはあろうかという巨大サイズのものだった。それも1個や2個ではない。あまりにも不自然過ぎる。
「なによ、このプレハブくらいありそうな大きさのトレジャーボックスは!? 何の説明もないんだけど!?」
「ははぁ、さては主催者のプレゼント、もしくは罠ですね。中々粋な真似を……」
アロエが顎に手を当てつつ、したり顔でボソッとつぶやく。
「何よそれ?」
「先ほどの開会式でチガソン・ドパコール氏はこう説明しておられました。『また、コースの途中に試合展開を有利に運べる便利アイテムも各階層に一つずつセットされておりますので、出来るだけゲットしましょう』と」
言われてみればくだらん駄洒落の合間にそんなことを言っていたような気もする。
「それってつまり……」
「ええ、このどう見てもどこぞの魔導書好きエルフが思わず首を突っ込みたくなりそうなデザインのブツは、中に例のお宝とやらが入っているのでしょう」
「なるほど、でもそれにしちゃちょっと数多過ぎない!? 各層ごとに一つしかないんでしょう?」
「はい、つまり本物の宝箱はあの中のどれか一つのみということでしょう。ほら、すでに蓋の開いている物もありますよ」
「……うげっ!」
『ブキャキャキャキャキャキャキャ!』
彼女が指し示す代物を見て、私は口に含んだばかりのコーヒーを吹き出し、それが降りかかった脳みそくんはまたもや絶叫した。進路上の白い床に宝箱の残骸と、胴体部を大破した銀色の騎士型OBSが横倒しになって無惨な姿をさらしていたのだ。
「きゅ、救急車呼ばなきゃ! AED持ってきて!」
「お嬢様、落ち着いてください。あそこにあるのはロボットだけです」
「そういえばそうだわね。これって、つまり……」
「恐らく宝箱には不用意に開けると爆発するタイプのものもあるのでしょう。死体は無さそうなので、パイロットとコパイはすでに脱出済みと推測されますが」
「そ、それは良かったわね……それにしても怖すぎるわ!」
私はホッと一息つくと共に吐き捨てるように怒鳴った。




