34、トイレ付き
「フーっ、やっぱり眠気覚ましのカフェインは最高よね! 飲むとおしっこが近くなっちゃうのが欠点だけど」
私は右手にマグカップの取っ手を握りしめながら左手で器用に操縦をこなしていた。
「お嬢様!」
アロエの咎めるような厳しめの声が飛ぶ。
「大丈夫だって、トイレは配信切ってから行ってるでしょ?」
「そういう問題ではなく、発言自体にお気を付けください。せめてお花を摘みにいくとか」
実は我が愛機【ラキソベロン】はトイレ付きの超万能ロボットなのだ。昔のロボット漫画みたいに戦闘中に垂れ流したり、尿道に管を突っ込む必要がない点は非常に素晴らしいと思う。
「はいはい、それよりもっと喉が火傷しそうな程熱々のお代わりをちょうだいよ。これじゃ物足りないわ」
「そんな危険物なんか飲んだら腫瘍が悪化しますよ、多分。それにいざ戦闘になった時揺れるので危険です」
「もう、一々細かいわね、わーったわよ。しかし……」
二杯目をあきらめた私は、残りのコーヒーを大事にちびちび飲みつつ先ほどアロエが調べてくれてモニターの右上に表示してある現時点での順位表を眺めた。
「この中になんか知ってる名前がある気がするんだけど、よく思い出せないのよね……」
「また記憶喪失ですか、お嬢様? 今日の日付と自分の年齢は言えますか? 桜猫電車って覚えられますか? 100-7はいくつですか? 野菜の名前十個言えますか?」
「馬鹿にしないでよ! 記憶喪失や認知症じゃなくて単なるド忘れよ! 確かどこかで会ったかもしれないんだけどねぇ……うーむ」
「どうせお嬢様への恨み持ちの類じゃないんですか? もういいかげんにしてくださいよ、これ以上敵を増やすのは」
「だから違うって! そんな凶状持ちなんかじゃないわよ! もういいわ! それにしてもあれ、何かしら?」
アロエとアホなやり取りをしている間に、奇妙な光景が目に飛び込んできた。
なんと、通路のあちこちに、RPGにありそうな巨大な宝箱がデンと設置されていたのである。