32,記憶の闇
(あの時、あの変態仮面野郎は何て言ったんだっけ……?)
私はどことも知れぬ場所で必死に記憶をたどるが、彼が仮面をこちらに向けた後から先が闇に包まれたようになって何も思い出せない。6歳より前の過去が不明瞭なのと同様に、どうしても掘り起こすことが出来ないのだ。
一体何があったというのだろう? とてもショッキングなことがあって、自分で自分の記憶に蓋をしてしまったとでもいうのだろうか?
「うがあああああああああああ! すっげえ気になって夜もろくに眠れんわああああああああああ!」
「お嬢様! センナお嬢様! しっかりしてください! 眠らなくていいですから、ちゃんと起きて前を見てください! ちょっと失礼いたします! てかとっとと起きろおおおおおおお!」
「ぐげぼっ!」
グーパンチで腹をどつかれて吐きそうになったが、痛みで思わずシャキッとする。どうやら極短い間だったがすっかり眠りこけてしまったらしい。
「何すんのよ、唐揚げ逆流してきたじゃない! ……って言いたいところだけど、起こしてくれたのね。一応お礼を言っておくわ、ありがとう、アロエ」
「いいえ、こちらこそ差し出がましい真似をして申し訳ございません、お嬢様。ですが居眠り運転は大事故の元で御座います」
彼女は珍しく真剣な目つきをしている。どうやらコパイ側でもある程度操縦の補助は出来るようなので、事なきを得たようだ。
「わ、わかってるわよ。いつもはこの時間帯は布団の中だから、ついうつらうつら船漕いじゃっただけだって」
「確かにそうですね。眠気覚ましに『栗取り爺さんの冒険』のミュージックでもかけましょうか?」
「あんたの選曲センスって本当に終わってるわね! せめて『赤フン勇者の伝説』にして!」
『五十歩百歩スギル……』
「んなこたどーでもいいのよ! ていうか、ここって空が見えるのね……」
私は眠気覚まし代わりにお節介な脳みそ野郎に怒鳴りつけながらも、モニターを指し示した。いつの間にか延々と続いていた白天井は姿を消し、上空は硬化プラスチックを通して漆黒の宇宙空間が広がっていた。