31,デート
以前……今となっては遥か昔に思えるけど、つい一ヶ月ほど前、婚約者だったアローゼン(もちろん脳みそ状態ではなく人間形態)と一緒に、コロニー第三層の人工湖付近の繁華街でデートなるものをしたことがある。確か夜景が綺麗だとの噂だった。
実際に水路を泳ぐ人工育成されたカラフルな軟骨魚の群れを見た私はかなりテンションが上がっており、躊躇する彼を引っ張って釣り堀にまで挑戦してしまった。その後、高級隕石ジュエリーショップをはしごしたり、11Dだか12Dだかの最新技術を駆使したラブロマンス映画を鑑賞した。
それはそれはとても楽しくて幸せな時間だったと記憶しているが、アローゼンの突っ込み気質は当時から健在で、「魚がグロくて不味そう」とか、「宝石の良し悪しはわからない。どれも一緒に見える」とか、「どっちかというとアクション映画の方が面白かったな」とか会話の端々で興ざめなセリフをほざいていた。もっともその時は場の雰囲気と彼の甘いマスクに騙されてあまり気にも留めなかった。思えばうかつ過ぎたのだ。
さて、ディナーに行くにはまだ多少早いという中途半端な時間に私たちは、水路にかかった橋の上にある、よく当たると評判の占いの館の側を通りかかった。
「ここの占い師は年齢も性別も不詳だけどよく当たるって評判だそうだ。本当かどうかはわからないけどな」とアローゼンは予習してきたのかスラスラと教えてくれた。
「へーっ、面白そうですわね。私の得意な重力魔法みたいなものかしら?是非とも拝見したいですわ」
というわけで近い将来ひどい結末が待ち受けていることを知るはずもない恐れ知らずの二人はルンルン気分で薄暗い小屋の中に入っていったのだった。
待つこと数分、私たちは怪しい黒いローブをまとい、白い仮面を付けた謎の人物の座る机の前に通された。机の上には水晶玉やタロットカードはないが、水槽に使った何らかの脳みそが置かれているのが不気味だった。
「ヨウコソ、我ガ館ヘ。アナタ方ハ何ヲ占ッテホシイノカ?」
明らかにボイスチェンジャーを使用した無機質な声で、謎の占い師は問う。
「「もちろん、私たち二人の未来について!」」
ハモって答える私とアローゼンに対して鷹揚にうなずくと、彼(?)は両手を水槽の中に突っ込み、脳の表面を撫でまわす。
そして顔を上げ……想像だにしなかった予知に私は失神しかけた。