21、茶巾
たとえ人類が宇宙に進出しても体内時計でほぼ24時間周期に縛られているように、季節の変化も必要であるという説がある。このマグコロールコロニーもその説に基づき、簡単ではあるが四季の変化が人工的に再現されている。
あの夏の日、学園の購買部で私が半熟卵レタスサバサンドを買いに行った時、ちょうど最後の一つを血相を変えたツインテールの下級生の少女に寸前で掠め取られてしまったのだ。
「ちょっと! 私が狙ってたのよそれ!」
不本意ではあるが、つい怒鳴ってしまう。相手の肩が後ろから当たったせいもあるし、何よりも二年生の私より先に一年生がパンをゲットするなんて許せなかったから。
「すみません! でも仕方がないんです! 寮の同室者の先輩に買ってこないとお前のスカートを頭上で茶巾に縛って放置するって脅されるんです!」
涙目で訴える銅でも食ってそうな緑色の髪の毛をした小柄な少女は一見小学生かと見間違えるほどで、なるほど人によっては嗜虐性をそそる存在かもしれなかった。てか短いスカート履けよ。
「やれやれ、あんたそんな古典的ないじめなんかに屈しちゃダメだって。あれにはちゃんと対策方法もあるのよ」
「ええっ、そうなんですか!? 知りませんでしたお姉様! でも、手も足も出ないのにどうすれば!?」
「フッフーン、そう思うでしょ? でも実際は茶巾内部では両手は自由に動かせる。そこがミソだよワトソン君」
いたいけな少女にお姉様と呼ばれてちょっと気分が良くなった私は、調子に乗ってチッチッチッと右手の人差し指を左右に振った。
「ぜ、是非とも教えてください名探偵ホームズお姉様!」
「そんな珍妙な名前じゃなくってセンナっていうんだけどね……ま、いいわ。要は自分でスカートのホックを外し、ファスナーを下げつつズリズリと脱いじゃえばいいってわけよ。そうすれば簡単に脱出できるわ。ま、どうせ下着も既に晒されてるんだから、スカートを脱いでもダメージは増えないでしょ?」
「すごい! 悪魔的天才的な才能ですお姉様! 一生ついていきます!」
「いえいえ、こちらこそお役に立ててよかったわ。じゃあそういうことでそのパンは私が……」
「おい何グズグズしてんだクソチビ! 昼休みが終わっちまうだろーが! 半熟卵レタスサバサンドは足が早いから速攻でゲットしてすぐ冷蔵庫に入れとけってあれほど言っただろーがカス! 俺様の明日の朝飯用になぁ!」
「きゃあっ!」
突如背後から蹴りが飛んできて、緑髪の少女がゴミのごとく吹っ飛ばされた。
それが同級生にして学園の寮を束ねる噂のスケバンことメマリーを憎んだきっかけだった。