202、煽り
「あやつのことはよーく覚えておるぞえ。時代錯誤のスケバンなんぞに憧れる、頭のおかしいヤンキー崩れのゴミムシであったのう……。あの馬鹿者は、愚かにもワシの大事な大事な……」
ここまで口にして余計なことを言い過ぎたとでも思ったのか、アノーロは前触れなく黙り込む。不穏な空気が叢雲のごとく場に立ち込め、皆の緊張感が一段階ギアチェンジする。なんか急に一触即発の爆発物処理状態に陥った様子だ。私は万が一に備えてモニターを凝視する。幸いあれからまだ誰も攻撃に移る気配はなかった。だが……。
「ところでサラジェンとかいったか、そちは生前のメマリーと親しい間柄だったのか? さぞや我儘で陰険で疲れたことであろうのう。大儀であったな」
すげえ上から目線の煽り口調でねっとりと語るアノーロに、私は薄っすらと肝が冷えてきた。
「……いえ、まったくそんなことはなかった。彼女は男よりもさっぱりしていて清々しく、義に厚い女性だった」
サラジェンはアノーロの挑発に対して動じず、淡々とした、だが芯のある言葉を返した。
「ほほ、随分と肩を持つのじゃな。知っておるぞ、お主のことはな。確かリアルタイプV-Tuberとやらであろう。以前暇過ぎて死にそうな時、何の気なしに配信を見たことはあるが、頭痛がしてすぐにやめたわ。今は人が変わったようにすましておるが、その皮の下はどんな醜い素顔が隠されておるんじゃ?」
「……」
「どうした? あまりに図星過ぎてワシのことを尊敬したくなったか? ん?」
「……」
アノーロが話題をサラジェン本人に切り替えると、途端に返事が無くなった。私は内心ハラハラしながら二人の会話を見守るしかなかった。てかサラジェンのやつの動画って、あれ素顔じゃなかったんだ……どうりでやけに作り物臭かったけど。
「なんじゃ、言い返すことも出来んのか? つまらんやつよのう。ではワシが無礼なお主をそのキモい機体から引きずり出して、全国に生配信してやって……」
「うおおおおおおおおおおおおおおっ!」
突然サラジェンの駆る【グリベッグ】が、彼女のスクリームと共に死神に向かって襲いかかっていった。




