20、お嬢様とスケバン
「とにかくもう時間がないし行くわよ! ケフラール! そしてミサイル発射するから任せたアロエ!」
「はいはい、えーっと、目標天井部、ショルダーミサイルロックオン。発射!」
加速魔法詠唱直後、【ラキソベロン】の両肩口にあるごっついミサイルポッドから、それぞれ一発ずつミサイルが射出された。ミサイルは自機よりわずかに先行し、計算通りちょうど問題の箇所の真下を通過する時に天井壁に直撃した。
「ぐわっ!」
なんと頭上の天井が呻き、機械の触手のような物が飛び出してくる。どうやら予想はビンゴだったようだ。
「なるほど、壁に擬態して待ち構え、側を通る機体を捕まえて食べちゃう魂胆だったのね?」
「お嬢様、僭越ですがタコやイカじゃあるまいし、機械は機械を捕食しないと思いますよ」
「うるさいわねアロエ! 言ってみたかっただけよ!」
「センナ! よくも先制攻撃してきやがったな! 許さねえぞ!」
目の前の天井もどきから魔動力通話が繋がり、ガラの悪い声が降ってきた。
「何言ってんのよ、明らかに罠張ってたくせに。ていうかあんた誰よ!? 天井なんかに知り合いはいないわよ」
「天井じゃねえわ! 俺の名前はメマリーで、こいつは俺の大事な相棒【タイオゼット】だ!」
「メマリー? ああ、そういえばそんなスケバンが学校にいたっけ……」
私は記憶を検索し、ようやく該当者を発見した。髪を銀髪に染めたやけに長いスカートを履いた風変わりな不良少女を。
「お嬢様、またなんかやらかして恨みでも買われたんですか?」
「まるでしょっちゅう買ってるみたいに言わないでちょうだい! ってさっきも同じこと言ったような気がするし!」
「おい、俺を無視して漫才やってんじゃねえ!」
後方の通話相手がうるさいので、仕方なくかまってやることにした。もうだいぶ通り過ぎてしまったんだけど。
「あんた最近学校で見かけなかったけどどうしたの?」
「ふざけんじゃねえよ! てめえのせいで入院してたんだろうが!」
「ええっと……」
私はようやくあの暑い日のことを思い出した。