18、亡き母の面影
「自分もどんなお方だったのか口で伝えることは出来ますけど、それ以上となると、難しくて……」
「いいって。それは仕方がないことだわ。元々小さい時の事なんて覚えていない人が多いっていうしね。なんだかうすぼんやりと嫌な記憶はあるんだけど……ま、そのうち何かの拍子に記憶の箱の蓋が開いてポンッって飛び出してくるかもしれないわよ」
「それもそうかもしれませんね。では、気持ちを切り替えてまいりましょう。検査のついでにスーパー人間洗濯機モードでひとっ風呂浴びるのはどうでしょうか? 10分ほどで終わりますよ。ゴールしてからだと遅くなりますからね」
「そこまで話を戻さないで! 絶対に嫌よ、ブタ鼻だけは!」
「えーっ、便利なのに……」
『……ん?』
私たちが言い争っている時、質問された時以外はずっと無言のままだったメインコンピュータの脳髄デバイスことアローゼンが何かに反応したのか、ピッと電子音を発した。
「どうしたの脳みそ君? あんたも風呂の話聞いてたら入りたくなったの?」
『ずーっと風呂に浸かってるようなもんだよこっちは! そうじゃなくて、何となくこの先の通路がおかしいんだ……』
「通路?」
私は慌てて体勢を整えるとメインモニターを凝視する。前方には先ほど同様何の変哲もない白壁の通路が延々と真っすぐに続いているだけだ。面白みの欠片もない。
「見たところ何の異常もないわよ。気のせいじゃないの?」
「先ほどからバルコーゼさんの【アバロン】やルーランさんの【ザジテン】と連戦続きでしたからね。きっとコンピュータも慣れない演算作業でお疲れなのでは?」
『いや、そりゃ確かに頭の中に変な情報ぶち込まれて、おまけに表面触られまくって疲れているけど、そこまでじゃないよ! いいか、この辺りは時々SDAGで使われるコースでもあるんで、見覚えがあるんだよ。でも、何だか今日は凄い違和感があるんだ。データ的には何の問題もないってのはわかるんだが……うーむ』
「そういやあんたSDAGマニアだったわね。まあ、それもあって脳髄デバイスに選んだんだけど」
『ひでえ! あんまりだ! うがああああああああああ!』
泣き叫ぶ電子音を無視しつつ、私は黙考する。この機体のリーダー兼操縦士としてどう判断すべきかを。