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17、宇宙腫瘍

「ちなみにお嬢様の罹患されている宇宙腫瘍ですが、これが最近原因としては最も高いですね。今のところ原因不明の奇病ですけど、先ほど述べた多臓器に発生することが知られています。一次的に取り除くことはある程度可能ですがすぐにまた再生するため根治は現在不可能です。


 お嬢様の場合、卵巣、卵管、子宮、子宮頚管、そして脳にも腫瘍が及んでおりますが、特に脳に一番顕著で浸潤が激しいです。以前も述べましたように幸い命まで取ることは若いうちはあまり見られないのが救いですが、万が一運が悪ければ……」


「ま、まあそうだけど、要は優勝しちゃえばいいのよ! 大丈夫だって!」


 機内の雰囲気が非常に暗くなってきたので、わざと私はカラ元気で明るい声を出してみせた。


「あ、誠に申し訳ございません! 余計なことを喋ってしまいました。自分としたことが、逆にお嬢様にお気を使わせ、励まされるなんて……」


 普段は才が鼻に抜けるようなアロエが珍しく失敗を恥じて私に頭を下げる姿は、何となく哀愁が漂っていた。時々やり過ぎてしまうのが彼女の悪い癖だ。


「いいってことよ。誰だって失敗や失言はあるんだから。それにそもそも私が言い出したことだしね。私だって子供の時の記憶がほとんどないから、未だに人と上手くいかないことばっかりだし……はぁ」


 ちょっとは主人らしく広い心を見せつつ、私もちょっとばかり嘆息する。


「やはり未だに思い出せませんか?」


「そうね……まあ、別にいいと言えばいいけど、お母様のことが何一つわからないってのがね……」


 そうなのだ、私の記憶は6歳の時、「お母様が亡くなられました」というアロエの台詞から始まっている。その後十年間、私は彼女をほぼ母代わりにして育ってきた。時々しか会えない父よりもよっぽど親密な関係と言えるだろう。


「お母様はお嬢様に似て、それはお美しくてお優しく、聡明なお方でしたよ」とアロエは事あるごとに話してくれるのだが、写真嫌いだったとのことで、彼女を映した物は何一つ残っていないのだった。

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