150、素
「グゴオオオオオオオおおおおおお!」
普段だったらこんな大雑把な攻撃になんぞ引っ掛からないであろう暫定一位さんが、まるで罠にかかった獣のように咆哮するも、光の糸で編まれたかのような魔法の網は決して破れることが無かった。更に彼女はもう一発同じ呪文を詠唱し、そこら中に蠢く子宮の群れを文字通り一網打尽にした。
「す……すごいじゃないのサラジェン! あのにっくき泥棒猫野郎を一撃のもとに封じ込めるなんて! ありがとね! センキューベリーマッチング!」
つい興奮のあまり魔動力通信で救い主に感謝の意を伝える。こいつ、現在三年寝太郎状態のルーランなんかよりもよっぽど使えそうだ。人気配信者を助けたり助けられたりするのはベタ過ぎると今まで馬鹿にしていた私だったが、背に腹は代えられないし、意外と悪くなかった。やっぱ王道も悪くないもんだな。
[ど……どういたしまして……ペットボトルのお返しですし……不味かったですけど]
(ん?)
返ってきた口調に、私はちょっととまどってしまう。これがさっき『はーい皆さんおまたかおるーん! 皆さんのアイドルこと蜘蛛娘の九千九百九十九万石サラジェンちゃんだよー!』とか超ハイテンションで実況していたのと同一人物か?
「あんたかなり配信の時とは様子が違うわね。調子まだ悪いの?」
「い……いえ……こっちの方が素なんです……ていうか、普段からあんな感じの人間なんか多分いませんよ……」
「な、なるほど! それもそうか! ごめんね、そこら辺の事情にはうとくって!」
確かに彼女の言う通り、あんな喋り方続けている人間が実際にいたらうざすぎて誰も寄ってこないだろう。役作りって大事だな、うん。
「というわけでサラジェン、私はセンナって言うんだけど、助けたお礼っていうのもなんだけど、しばらく道中一緒に付き合ってくれる? 相棒もあの通りのびちゃっているしさ」
ここぞとばかりに協力を頼んでみる。まだまだレースはこれからだし、難所を乗り越えるには助けが必要だとよくわかった。彼女は絶対戦力になる。
「い……いえ、すみませんけどお断りします」
しかしサラジェンが発したのはつれない返事だった。




