147、盾
嵐のごとき惑乱のさなか、私は脳内でさっきのアロエとの会話に舞い戻る。
「あらあら、子宮回帰願望でもあったんでしょうか、あのお方は……かなり特殊な性癖ですね、お嬢様」
「だから知らんわそんなマニアックな性癖は! てか普通あんなもんがママンに見える筈もないわ!」
こう吐き捨てたものの、現状から察するにその可能性は十分にある。
「まさか、ひょっとしてだけど、ここの触手振り回してる子宮たちのことをお母さんって呼んでるわけじゃないわよね……って本当にそうなの!? あんた正気!?」
【アバロン】の手にする黄金剣が指し示す方向を見て、私は驚愕した。それはまさしく私が魔法で押しつぶした子宮の群れだったから。
「よくもよくもよくもよくもおおおおおおお! 食らええええええ、グレースビットおおおおお!」
大剣の先端が急にこちらを向き、あのシャッター通りで私を散々苦しめた突風の魔法を射出する。あれをまともに食らってはひとたまりもない。
「お嬢様、魔動力バリアを!」
「なんだっけそれ?」
「もう忘れたんですか!? 第一話、もといルーランさんとの初戦で使ったでしょう!」
「おっとそういえばそうだったわアロエ! チラージン!」
あわやというところで魔法障壁が我が機体の前面を覆い、強風を四方八方へと受け流す。魔動力がたんまりある時しか効果が薄い障壁魔法だが、現在マックスのためかかつてなく強靭で堅牢な盾となってくれたのだ。
「おお、意外と使えるわねこの魔法! これなら楽勝じゃね?」
「いえ、今は良いですが、しょせん一時しのぎに過ぎません。効果時間は短いし、相手のパワーが上の場合はかき消されることもあります」
確かに彼女の指摘する通り、バルコーゼが猛り狂ったように吠えながら連発する暴風の魔法はどんどん威力を増していき、ジリジリとバリアが端の方から削られていく。このままだとそう長くはもたないだろう。
「うごおおおおおお!」
さながら大風に対して傘を向ける状態の私は、吹き飛ばされないよう気合いを入れた。




