146、殺気
「だから冗談だって言ってるでしょーが! しっかし弱ったわね……って、ん!?」
今日何度目かのため息を吐きそうになった時、突如凄まじい殺気を感じ、私は逆に息を止めた。
「な、何よ何よ! 敵が他にもまだいるっていうの!?」
「お嬢様! 一旦落ち着いて集中なさってください」
「そ、そうね……つい取り乱しちゃったわ」
私は感覚を研ぎ澄まし、辺りを探る。どうやら痛いくらいに肌を刺すほどのその未知なるエネルギーは、子宮ルームと化した広間の隅の方から発している様子だ。恐らく強大な魔動力に激しい感情を上乗せし、鋭利な刃物のような波動を形成しているので、私にも察知できたのだろう。あまりにも異常な魔動力は魔法を伴わずとも時として周囲に伝播することがあるのだ。しかしこれは一体、誰が……!?
「バルコーゼ!?」
なんと、一連の子宮内宝箱ゲットだぜ暗いよ狭いよ怖いよ祭りの間中、ずーっと壁際にへばりついてオギャりだのバブみだのママンだのなんだのわめきまくって完全に蚊帳の外状態だった金色のOBSが、頭上の私を睨みつけるように見上げていたのだ。
「ど、どうしたって言うのよ泥棒猫野郎で陥没乳頭で変形水着好きのバルちゃんったら。言っとくけど私、あんたの気に障るようなことなんか何一つしてないわよ」
つい、不自然に親し気な口調で話しかけてしまう。それほど暫定一位の放出するオーラは威圧的で天井を突き破らんほどで、彼女の抑えきれない怒りを雄弁に物語っていた。
「よくも……よくも僕の愛するオーラママンをこんな目に……許さんぞクソ虫があああああああああああああああ!」
なんと、魔動力通信から飛び出すバルコーゼの言葉の一字一句は完全に常軌を逸しており、意味不明の極みだった。
「ちょっと落ち着いてよ! 一体どこにあんたの大事なママンがいるっていうのよ!?」
「黙れクズがああああああああ!」
最早何一つ私の言葉は彼女には届かなかった。マンマミーア!




