14、アポロ計画
「いい質問ね、アロエ。昔々の話だけど、人類がまだ地球に住んで原始的なロケットくらいしか宇宙に行く手段が無かった頃、無謀にも月を目指すアポロ計画って一大プロジェクトがあったそうよ。その何回目かの時、地上では問題なく動いていたロケットのメインコンピューターが宇宙空間で突然壊れてうんともすんとも言わなくなることがあったの。それと同じ理屈よ」
「ふーむ……」
細い顎に手を当て考えていたアロエだったが、ものの数秒で閃いた様子で、言葉を続けた。
「なるほど、おそらく無重力空間でコンピューター内の固定のゆるかった部品が浮いて、接続が外れたんですね」
せっかく私が解説しようとしたのに見せ場を取られてしまった。こいつ本当は最初からわかってたな。まあいいけど。
「正解! 結局あいつの剣にしろ、こっちのジクアスにしろ、本当は切ったはった出来るような実剣じゃなくて魔法を増幅して打ち出すための単なる機械装置に過ぎないってわけ。だからそれさえ無効化すれば、何も怖くなんかないって寸法よ!」
「さすがです、お嬢様!」
「そもそもどうせあいつのすばしっこい本体にこっちの魔法が命中するなんて私は期待してなかった。だからダメもとで少しでも武器をかすめるようにさっきは打ったんだけど、狙い通りだったわね。どう、凄いでしょう?」
『すげえわ悪役令嬢!』『確かにいざっていう時武器が使えないと慌てるよね』『なるほど、よくわかったよ。さっきは一次試験合格はまだまだのようだけどなんて言って悪かったね。君はこの僕を華麗にやり込めた。文句なく合格だよ、センナ君』
「!」
いつの間にかコメントにどこかで聞いたような口調の長文が流れてきたため、私は目を見開いた。モニターをよく見ると後方で【アバロン】が生意気にも手を振ってやがる。でもまあ、一矢報いる事には成功したから良しとするか。
「お嬢様、この後は道が八方向に分かれております。どうなさいますか?」
またもや選択肢が示された。
「もうどれでもいいわ! 早いとこあいつから距離を取るわよ!」
私は一番手前の道を選ぶと、憎い敵機を視界から消した。
……そしてこの後、直線通路で真紅の機体【ザジテン】に乗ったルーランと遭遇することになる。