130,黙秘
「いいか、よく聞け。ここを突破するための私の立てた作戦とは……」
ここまで言ってわざと中断する。当然のごとく重苦しい緊迫感が場を支配し、チームの面々は今や遅しと続きを待つ。いわゆる軽度な放置プレイで、至福の時だ。
「言うわけないだろう! バーカ!」
ズコーっという音が聞こえそうなくらい、一同のやる気が一気に抜けた。
「えーっ! 何ですかそれは!? もったいぶらずにさっさと話しておしまいなさい! 楽になりますわよ!」
『ソウダソウダ! 横暴ダ!』
「お嬢様、それはさすがにモラルに反すると思われますよ」
一拍置いた後、皆口々に私を非難する。喧々諤々といった感じでやかましいが、もっともこんな些細な暴動は計算の内だ。
「うるさい小僧ども! リーダー的存在として黙秘権を行使する! いいな! わかっているとは思うがさっきも言った通り全員返事は『イエス』のみだ!」
ブーイングの嵐をさえぎって、私は威風堂々と絶対王者の貫録を持って宣言する。
『デ、デモ……サスガニ黙秘ノ理由クライハ……』
まだ突っかかるかこいつ、とむかっ腹が立ったが、これ以上揉めるのも嫌なので、仕方なくここは折れてやることにした。
「ほら、小説や漫画なんかでよくあるだろ。実際の戦闘前に味方の参謀とかが主人公たちに話した作戦ってほぼ100%の確率で、仲間の失敗や敵に裏をかかれたりして失敗するんだぞ。私はジンクスを重んじる方なんだ。理解したか?」
『ナ、ナルホド……!?』
ゴーイングマイウェイ極まる私の理不尽な説明に、多分目があったら白黒させてたと想像されるような声で脳みそくんが答える。
「わかりましたお嬢様。ならばお望み通り、その作戦とやらを実行なさってくださいませ」
アロエが普段よりも二、三割ほど冷ややかな口調で告げる。だが、それを聞いて私はピーンと来た。どうやらこのメンツの中で私の意図を完全に正確に理解しているのは、彼女だけのようだ、と。