13、虎口脱出
「やれやれ、せっかく忠告してあげたのに聞く耳持たずか。どうやら少しはわからせてあげないと駄目なようだね。食らえ、グレースビット!」
バルコーゼは剣を握りなおしてこちらに向けると、再び突風の魔法を詠唱する。またもやこっちのOBSをゴミ屑のように遠くに吹き飛ばす腹積もりのようだ。しかし……
「ん? どういうことだ!? 故障か!?」
なんと剣の先端からは微風すらそよりとも吹かず、何の変化も起こらなかった。
「これは……一体!?」
「バイバイ泥棒猫ちゃーん!」
私は戸惑っているバルコーゼを尻目に意気揚々とその脇を通過する。
『すげえ!一体どうやったんだ!?』『それよりバルコーゼって本当に陥没乳頭なの!?ちょっとがっかりだわ』『何言ってんだお前、陥没こそ至高! 長乳首なんぞ序の口ジョージで鬼龍が回収しに来るわ!』『母乳が出るならどっちでもええわ!』
「……何だか私の活躍よりも外野が違う点で盛り上がっているんだけど!?」
「おあきらめください、お嬢様。所詮下賤のやから……おっと失礼、一般大衆というものはそのようなものです」
「んもー! 何が起こったのか親切に種明かししてあげようと思ったのに!」
私はプリプリむくれてみせた。
『すんませんお願いします』『俺たちが悪かったですお嬢様、教えてちょんまげ!』『それにしてもさっきの呪文だけいつもと違わなかった?』
急に腰が低くなるコメント群に、私の憤慨もやや治まった。てか一人だけ勘のいい奴がいるみたいね。
「いいわ、特別に教えてあ・げ・る。我が伝統あるピコスルファート家の家系魔法が重力を操るものだってことは先刻ご承知でしょうけど、重力を操るってことは物質を重くするほかに軽くすることも出来るってことよ。だから、さっき披露した呪文は当たったものを無重力状態に近くするってわけ。要するにあいつの剣の一部が今現在そうなっているのね」
「素晴らしいご説明誠にありがとうございます。ですがそれがどうして相手の魔法が使えないことに繋がるのですか?」
打てば響く太鼓のように、アロエが適切に尋ねてくれた。