123、配信動画その6
『よーっし! これで準備万端タネダネ! そんじゃ皆、おらといっしょにぱらいそさいくだ! いざ約束の地へGO!』
『さらじぇんさま! ぐろうりあのさらじぇんさま!』『わしもつれていってくだせ!』『カナーン!』
なんかよくわからんけど宗教的恍惚感に包まれたまま、彼女の駆る【グリベッグ】は、母の胸元に飛び込む幼子のごとく、ためらいもなくまっしぐらに桃色の肉の海めがけて突入していった。
「うげええええ……でも、触手風呂って生身じゃなくても気持ちいいものなの?」
そもそも触手風呂自体が気持ちいいものなのかという問題はあったが、それは一旦横に置いておくとして、私は嗚咽とともに疑問を口にした。
「あら、あなたにしてはかなりまともな質問ですわね。でもまだまだですわね。良いですか、OBSには密かに機体の各部と操縦者の感覚を同調させるモードがあるんですのよ。もっとも破損したり攻撃が当たった時は痛いだけですから、ほぼ誰も使いませんですけどね。こんなの基本の『き』ですわよ」
ルーランのやつがまたもや嫌味ったらしく講釈を垂れやがった。クソ、取り澄ましたそのメカのケツメドにロケットパンチを食らわせてやりたいところだったが、あいにくそんな機能はなかった。ア〇ルファック!
「じゃあどうやって使うのか実際にやってみせてよ。でないといざという時にわからないわよ。まさか人に言っておいて出来ないの?」
「そ、そんなことないですわよ! 仕方がないですわね。やって差し上げますわ。この上にあるフィーリングレバーを一番下まで下げて……」
とかやってるうちに画面では乳と蜜の流れるとかいう地に達した蜘蛛介が八本の足をいっぱいに広げて今まさにタコ糸で縛られたローストビーフ状の肉塊に飛びつかんとしていた。中々にマニアックなシーンだ。
『うびょわあああああああああああああああ!?』
次の瞬間、サラジェンが突如配信では流しちゃいけないレベルのけったいな悲鳴を上げた。よく見るとタコ糸じゃなくて蜘蛛の糸の網目から伸びている触手が、激しくもがく【グリベッグ】の脚の一つに絡みついている。ただ、それだけだった。
「なになに、触手って一本だけでそんなに凄いの? あんたの汚いオホ声よりいい声出すじゃない!」
「まだ言うかああああああああああああガッデームですわ!」
ルーランが久しぶりにブチ切れた。