116、異変
「んもう、今度は何? やつら子宮筋腫だか子宮外妊娠だかでも起こしたの?」
「仰ってる意味がよくわかりませんが、あの隅の方をご覧ください。あれは恐らく……」
「はいはい、ガイドさん、見ますって。えーっとただいま左手に見えますのは……うげっ!」
アロエの命じるがままに白魚のごとき指の指し示す方向に何気なく視線をやった私は、両方の目玉が転げ落ちそうになるほど驚いた。
研究室の実験用のマウスを閉じ込めているプラスチックケースのごとき、ピンクのお肌の子宮たちがおしくらまんじゅうする四角い空間の隅に、どこかで見たような金色のOBSが壁にへばりつくような姿で立っているのが目に映ったのだ。機械仕掛けの天使のような特徴的な機体は、間違いなく……
「あれは陥没乳頭で変形水着好きのバルコーゼ! なんで暫定一位のあいつがあんなところでヤモリみたいになってるのよ!?」
あれだけ人に対してリタイアしろだのなんだのほざいていた殿上人が、見る影もない醜態を衆目にさらしているのはざまあとは思うもののショッキングなこともあって、私はつい過剰反応してしまった。
「確かにあのバルコーゼさんが敵に何もせず案山子のように突っ立っている点はまったく理解できませんね……」
『アア、彼女ホドノ実力者ナラ、オ得意ノ風ノ魔法ヲ駆使スレバアレクライノ敵ヲ蹴散ラスコトナド造作モナイデショウ』
アロエのつぶやきを受けて、脳みそくんも考察する。まったくもってその通りだけど、あの巨乳の誘惑にこいつが即負けたことを思うとその高評価ぶりになんかすげえ腹が立ってきた。またあとでローション風呂の刑にしてやろう。
「ちょっと皆様、お静かになさって! あの方、何かをずっと大声で言っている様子ですわよ」
「ええっ!?」
ルーラン操る【ザジテン】がご丁寧にも左手の人差し指を立てて口元に持ってくるポーズをとる。仕方が無いので皆一旦口を閉じて、耳をダンボにして外の音を拾った。