110、正午の鐘
「あれはなかなか納得しないあんたたちを言いくるめるための方便だって! そもそもOBS操縦したのも戦ったのも昨日が初めての初心者なのよ私!」
『マア、ビギナーズラックッテ言葉モアルコトダシ……』
「うがああああああ! これ以上私に任せると死んでもしらないわよ! てかどっかで昼寝でもして魔動力回復させたいわ!」
「それこそ今お眠りなされると皆あの世に行きかねないので我慢してください。とりあえずお昼にでもいたしましょう」
12時の鐘がどこぞで鳴り響く中で、アロエがランチボックスを取り出して蓋を開ける。
「また猫の唐揚げ弁当か……さすがにちょっと飽きてきたわね」
「なんでそんなゲテモノを食べておられるんですかあなた方は!?」
『イロイロアッタンデスヨ、嗚呼……』
脳みそくんが意味ありげに大きく嘆息する。そういえばもとはといえばこいつの猫だったけ、ビサコジル。ちゃんと脳みその方はアローゼンの身体に適応しているかしら。レースが目まぐるしすぎてすっかり忘れていたわ。
「食事で魔動力も回復すると良いんだけどね……モグモグ」
「口に頬張りながら話されるのはお行儀が悪いですよ、お嬢様。まあ、現在そんな商品をどこかが開発中というニュースを以前小耳に挟んだ記憶もありますが……」
「なんですって? そいつはいいわね。出来たらチョコレート味だと嬉しいんだけど……モグモグ」
「だから食事中はお喋りはおやめになって……」
『食ベテイル最中ニ悪イケレド二人トモ前方注意! 何カガイル!』
「ええっ!?」
脳みそくんの忠告のせいで、私はせっかく噛み千切ろうと努力していたクソ猫の死肉を吐き出してしまった。確かに通路の先に何かが蠢いているような感じがするが……。
「な……なによ、あの触手の生えたピンク色のぬめぬめした気色の悪い、タコみたいな奇妙な化け物の群れは……!?」
「あれは……どうやら子宮のようですね、お嬢様」
コックピットの床に飛び散った唐揚げの欠片を拭き取りながら、アロエが信じがたい台詞を吐いた。