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101/136

101、病床

「ホーリン!? 大丈夫!? 私がわかる!?」


 私は大急ぎで彼女のベッドサイドまで駆け寄ると、小声で耳打ちする。酸素マスクを装着したホーリンの目がうっすらと開かれ、虚空を見つめる。こちらに気づいたのかどうかは判別不能だが、おそらく意識は戻った様子だ。


「私よ、センナ・ニフレック・ピコスルファートよ!」


 機械音にかき消されるのが心配で、先ほどよりはやや大きな声量で素早く名乗る。彼女の眼球が非常にゆっくりとだが、こちらの方向に回転する。どうやらようやく認識してくれたようだ。私はホッと胸をなでおろすも、いつ部屋の奥で機械と取っ組み合いをしている例の夜勤のナースに見つかるか気が気でないため、更に早口で要件を述べることにした。


「起きたばかりのところ悪いけど、さっき私とした約束のこと覚えてる? 『万が一生き残ってこの後また会える時があれば、あなたの未来をもう一回無料で占おう! このレースで勝利につながるような占いを!』ってあんた言ってくれたでしょ? 今しか会う機会はないだろうから、何とか一発ささっとやって欲しいわけよ!」


「……相変わらず……無茶苦茶だな……こっちは、見ての通り、重病人なんだぞ……身体中に激痛が走って指一本自由に動かせやしない……」


 肺の底から搾りだすように、ヒューヒューという音を立てながらも、ホーリンが精一杯の努力で声を発する。聞いていてとても心苦しかったが、せっかくここまで来たからには、目的は果たされなければならない。


「ごめんなさいね、大変なところ……でも、私にも優勝しなければならない理由があるのよ。こればっかりは誰にも譲れないわ!」


 つい力んで声量が上がってしまうのも構わずに私は重症患者の耳元で訴えた。彼女の表情は包帯と酸素マスクのためうかがい知れなかったが、瞳の動きから何らかの簿妙な手ごたえを感じた。


「知っているか……? 全身麻酔の後は喉がカラカラに乾くんだ……だから少し待ってくれ……」


 数秒後、彼女はやっとそうつぶやいた。

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