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タイトル未定2024/12/04 20:11

ちょっと昔の昔話。

時代は、あっという間に過ぎてゆくものです。過ぎ去りし、その時を生きた人々の素朴な情景と、この先の時代を生きる若人に向けての一つのメッセージになればと思います。

戦争ごっこ


 昔々と言ってもそんなに遠くない昔の事でした。

 ある街に竹の助という十歳になる男の子が住んでいました。竹の助はそれは元気な男の子で学校から帰ると直ぐに外へ遊びに出かけては、いつも体のあちこちに擦り傷を作っていました。

 友達と野球をしたり、ドッチボールをしたり、探検ごっこや、鬼ごっこ。かくれんぼ、それに馬乗り陣地取り、メンコにビー玉、凧揚げと集まる人数に合わせて毎日毎日忙しいくらいに遊んでいました。そんな色んな遊びの中でも竹の助は戦争ごっこが大好きでした。銀玉鉄砲や紙で作った玉を打つゴムパチンコを使って打ち合って相手のお城を占領する戦争ごっこはただ玉を打ち合うだけではなく、色々な作戦を練って敵のお城を攻めるところが面白かったのです。

 夏休みに入ると勉強もせず毎日、毎日竹の助はこうして遊んでいました。ところがお盆になると街の子供たちの多くはお父さんやお母さんの田舎に遊びに逝ってしまうため竹の助は遊ぶ仲間が少なくなくなってしまいました。竹の助の周りに残ったのは田舎のない将太と勇介の二人だけになりました。それでも三人は近所の空き地に出かけては遊んでいました。

 そんなある日の事、いつものように三人で空き地で遊んでいると花束を抱えたお爺さんとお婆さんが空き地の隅の石の塔のところへやってきました。三人はそれまでやっていたビー玉遊びの手を止めてお爺さんとお婆さんの姿を見ていました。そこに石の塔があったことは三人とも前から知っていました。そこにはいつもきれいなお花が活けられていたことも知っていました。でも、こうしてそのお花を持ってくる人の姿を見たのは初めての事でした。三人は興味深げにお爺さんとお婆さんがお花を活け替え石の塔の前に並んで座って手を合わせている姿を不思議そうに眺めていました。暫くするとお爺さんとお婆さんは立ち上がって振り向きました。お爺さんと目が合った竹の助は、お爺さんがしたのにつられて頭を下げました。その姿を見て将太と勇介もお爺さんとお婆さんに向かってお辞儀をしました。お爺さんとお婆さんはニコニコしながら、竹の助たちのところへと歩いてきました。

 「元気そうなお子さんで」

 とお婆さんは嬉しそうにお爺さんに向かって話しかけました。

 「本当に、子供はいいのぅ」

 お爺さんはお婆さんに向かって言いました。

 竹の助、と将太、それに勇介はなんだか照れくさそうに顔を見合わせながら笑いました。

 するとお婆さんが、手にしていた巾着から一つずつ袋に入った綺麗な飴玉を出して、

 「お食べなさい」

 と言って三人の前に皺の浮かんだ柔らかそうな手を差し出しました。

 三人はどうしていいか分からず顔を見合わせていましたが、お爺さんが

 「遠慮しなくてもいいぞ。おいしい飴ちゃんだ」

 と言ったのを聞くと口々に

 「ありがとう」

 と言ってお婆さんの手から一つずつ飴をもらいました。

 三人は照れくさそうに袋を開け飴を口に入れました。その飴はお爺さんが言った通り本当においしい飴でした。竹の助はメロンの味、将太はバナナ、勇介はイチゴの味のする飴でした。

 三人の嬉しそうな顔を見て、お婆さんは、

 「よかったらもう一つずつ、どうぞ」

 と言ってまた巾着から袋に入った飴を取り出しました。

 それを見てお爺さんが、

 「そんなにあげたら、ワシの分は?」

 と言うと

 「まぁ、まぁ、お爺さんたら。子供みたいに……」

 と言ってお婆さんは嬉しそうに笑いました。

 「心配しなくてもまだ沢山ありますよ」

 と笑いながらお婆さんが言うと

 「そうかそれなら安心、安心。もう一つずつとってもいいぞ」

 とお爺さんも嬉しそうに三人に言いました。

 それを聞いた三人はまた

 「ありがとう」

 と言って飴を受け取りポケットに大切にしまいました。

 

 するとお爺さんが

 「ところで、ぼくたちは何をして遊んでいたんじゃ」

 と聞きました。

 三人は口々に、飴を頬張ったまま

 「ビー玉!」

 と叫ぶと竹の助の口からメロン味の飴が飛び出してしまいました。竹の助が照れくさそうに口から出た飴を拾おうとすると

 「拾わなくても、その飴ちゃんは、アリさんのご飯にあげなさい。はい、もう一つ」

 と言ってお婆さんは同じ色の飴を巾着から探すと竹の助の手に渡しました。

 竹の助は、少し恥ずかしかったのですが、えへへっと笑いながらお婆さんからもらった飴をまた頬張りました。

 その姿を見て、お爺さんとお婆さんは

 「ほんに素直ないいぼっちゃんたち……」

 と言って顔を見合わせて笑っていました。

 それから、お爺さんが、

 「ワシも昔はビー玉遊びはよくやったもんじゃ」

 と言うと、

 「そうそう、お爺さんの遊んでいる姿を横で私もよく見ていました」

 とお婆さんが言いました。

 すると将太が、

 「それじゃ、一緒に遊ぶ?」

 と言うとお爺さんは嬉しそうに

 「仲間に入れてくれるか」

 と言いました。

 それから、竹の助、将太、勇介の三人とお爺さんはビー玉遊びをしました。その間、お婆さんは空き地に置いてあった土管に腰を下ろして楽しそうに四人の遊ぶ姿を見ていました。三人の子供たちは、大人とビー玉遊びをするのは初めてでしたが、時間があっという間に過ぎてしまうくらい楽しい時を過ごしました。

 夕方になって帰る時、お爺さんが

 「今日はありがとう、楽しかった」

 と言うとお婆さんが言いました

 「本当に楽しそうでよかったですね。沢山遊んでもらって」

 お爺さんとお婆さんは本当に楽しそうでした。それに三人の子供たちも本当に楽しい時間を過ごすことができました。

 「また、遊んでくれるかい?」

 とお爺さんが言うと三人の子供たちは、

 「うん、いいよ」

 と嬉しそうに言いました。

 

 それから、時々、お爺さんとお婆さんは三人が遊んでいるところに来ては一緒になって遊ぶようになりました。


 ある日のこと、三人が遊んでいるとお爺さんがやってきて

 「今日は何して遊んでいるんじゃ」

 と言いました。

 その日三人は戦争ごっこをしていました。

 竹の助が、

 「戦争ごっこ!」

 と言うといつもはニコニコしながら

 「そうか、ワシも入っていいか」

 と言っていたお爺さんの顔が悲しそうな顔になりました。その横に居てお爺さんの姿を見ていたお婆さんは、

 「あらあら、お爺さん。ただの遊びですよ。子供たちの遊び……」

 と言いました。

 するとお爺さんは、目に涙を浮かべながら

 「遊びでも、戦争はいかん、戦争はいかんぞ……」

 と言ってあの石の塔のところへと一人で歩いて行ってしまいました。

 いつもとは違うお爺さんの姿に三人の子供たちはすっかり元気をなくしてしまいました。子供たちの姿を見てお婆さんは、

 「ごめんなさいね。でもね、お爺さんの気持ちもわかってあげてね。賢いぼくちゃんたち」

 と言って三人の頭を一人ずつ撫でてくれました。

 そして、

 「そうそう、よかったら少しだけお爺さんのところへ一緒に来てください」

 と言うとお婆さんもお爺さんのいる石の塔のところへゆっくり歩いていきました。

 三人の子供たちは、どうしていいのかわかりませんでしたが、顔を見合わせて頷くとゆっくりお爺さんとお婆さんのいるところへと歩いて行きました。

 石の塔のところでは、初めて二人を見た時のようにお爺さんとお婆さんは跪いて手を合わせていました。三人が後ろに立つとお爺さんが振り向きました。お爺さんの頬に涙の痕が流れていました。そしてお爺さんはお婆さんから渡されたハンカチで顔を拭きながら

 「三人ともごめんな。せっかく楽しく遊んでいたのに」

と言いました。

 竹の助、将太、勇介の三人はお爺さんのその姿に少し戸惑ってしまいました。そして、お爺さんが、

 「今日は、ワシの話を少しだけ聞いて貰えんか」

と言ったので、三人は小さく頷きました。それから石の塔の周りの石垣に腰を下ろし三人はお爺さんの話を聞くことになりました。

 

 お爺さんは、お爺さんの子供の頃にも竹の助や将太や勇介のように仲のいい友達がいていつも仲良く、それでもたまには喧嘩もして遊んでいた時の話をしました。それはそれは本当に仲のいい友達でした。ところが、三人が大きくなって戦争が始まってしまいました。三人は、軍隊の同じ師団というところに配属され本当の鉄砲玉の飛び交う戦場にいきました。その時、敵にどれだけ玉が当たったとか言う話もしていたそうですが、ある日とても激しい戦場に言った時、お爺さんの二人の友達が敵の玉に当たってしまいました。一人は痛い痛いと言いながら暫くすると何も言わなくなってしまったそうです。もう一人の友達は、痛いのを我慢するように「俺たちが打った相手もこんなに怖い目にあったんだろうな。本当に申し訳ない、申し訳ない……」と痛さを我慢しながら死んで行ってしまったそうです。その二人はお爺さんのとても大切な友達でした。

 「ここになんと書いてあるか、わかるか」

 お爺さんは黙って話を聞いている三人に向かって言いました。

 そこには戦没者の碑と書いてありました。

 「これは戦争で亡くなった人たちの霊を慰めるために造られた記念碑じゃ。でもな、もう一つ大切な意味があるんじゃ」

 お爺さんはそう言うと石の塔に向かって手を合わせました。

 「もう、こんなことをしてはいけないということを三人のようにこれからの若い人達に知ってもらうためなんじゃ。戦争という奴にかかると人は殺し合う。どっちが良くても、悪くてもこちらにもあちらにも大切な友達が大勢死んでしまうもんなんじゃ。死んでしまっては喧嘩もできんようになるし、一緒に遊ぶことも、笑うこともできんようになってしまう。だから、絶対に二度としてはいかんのじゃ。わかってくれるか……」

 お爺さんの目からは、まだ、涙が流れていましたが顔は笑っているようでした。

 三人の子供たちも、お爺さんの話を聞いて悲しくはないのに何故か涙が零れていました。

 「遊びはいい、喧嘩もいい、でも、戦争だけはいかん。人を殺す真似事はいかん」

 そう言うとお爺さんは三人の子供たちの頭を一人ずつ撫でて回りました。

 竹の助は、お爺さんの手に撫でられた時、

 「ごめんなさい……」

 と言いました。

 「何も、謝ることはない。誰もそのことを教えんかったんが悪いんじゃ。ワシの方こそごめんなさい」

 とお爺さんは言いました。

 そんなお爺さんと子供たちの姿を見てお婆さんが立ち上がりました。お婆さんはいつものように巾着からお菓子を取り出すと、一人ずつに手渡しました。その日お婆さんは、塩せんべいを持ってきてくれていました。この時は、お爺さんもせんべいをもらい、お婆さんも一緒になってせんべいをかじりました。涙と混じったのか、竹の助にはそのせんべいはいつもよりほんのりとしょっぱく感じました。

 その日それから竹の助、将太、勇介は、お爺さんとお婆さんからいろいろと昔の話を聞いて家に帰りました。

 それから、竹の助たちが遊んでいてもお爺さんとお婆さんがやってくることは暫くなくなってしまいました。

 夏休みが終わるころ、竹の助、将太、勇介がいつものように空き地に行くとお婆さんが一人で石の塔のところで手を合わせていました。

 久しぶりにお婆さんの顔を見た三人はお婆さんに駆け寄って、

 「こんにちは」

 と元気よく言いました。

 お婆さんは、三人の姿を見るといつものように優しく微笑んで、

 「はい、こんにちは」

 と言いました。

 そして、竹の助が

 「お爺さんは?」

 と聞くと、お婆さんは笑いながら答えました。

 「お爺さんは、お友達のところへ遊びに行きました。しばらく会えないから淋しいけど皆さんに、よろしくっていってました。いつまでも元気なお子でいてくださいねって」

 そう言うとお婆さんは、いつもより余計に笑いながら帰っていきました。

 それからも竹の助たちは、元気に遊びに忙しい日を過ごしていましたが、お爺さんに言われた通り、戦争ごっこだけはすることはありませんでした。

 おしまい


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