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氷の悪女の契約結婚~愛さない宣言されましたが、すぐに出て行って差し上げますのでご安心下さい~  作者: 森川茉里


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豊穣祈念祭 03

 ネージュはアリスティードに連れられて、隣の部屋へと移動した。

 彼は、ネージュを室内にあった椅子に座らせると、低い声で尋ねてくる。


「腕を見せて下さい」

「…………」


 アリスティードはじっとネージュの顔を窺ってきた。

 言い逃れは出来そうになかったので、ネージュは渋々と神子装束の袖をまくった。


「あの野郎……」


 ナゼールに掴まれた左腕には、くっきりと指の型が残っていた。

 それを目撃したアリスティードは、険しい表情で吐き捨てる。


「痣ができやすい体質なだけなんです。すぐ治りますから……」


 と発言すると、彼の眉間の皺はますます深くなった。


「助けて下さってありがとうございます。アリス様が来て下さらなかったら、今頃どうなっていたか……」


「俺は当然の事をしただけです。ネージュは俺の妻……ですし、大切にすると誓いましたから」


 その言葉を聞いたら、ホッとして、視界が滲んだ。


「大丈夫ですか? いや、そんな訳ないですよね……」


 アリスティードはネージュの涙に狼狽えた様子を見せると、ためらいがちに指先をこちらに伸ばしてきた。


 その時である。元いた控え室の方向から、女性の悲鳴が上がった。


「ネージュ様っ! どこですか!? ネージュ様!!」


 続いてドタバタという音と一緒に、切羽詰まった様子のミシェルの声が聞こえてきた。

 そう言えば、市街地の状況を確認するように頼んだのをすっかり忘れていた。


 ネージュは立ち上がろうとしたが、アリスティードに制された。


「俺が行ってきます。ネージュはここで待っていて下さい」


 そう告げると、彼は控え室へと向かった。




   ◆ ◆ ◆




 ミシェルと合流したネージュは、アリスティードの勧めで一足先に屋敷に帰る事になった。


 ただでさえ疲れている彼にナゼールの処理を丸投げするのは心苦しかったが、手伝いを申し出ても叱られるのが目に見えていたので、ネージュは素直に従う。


 ミシェルは、自分が席を外している間にネージュの身に起こった出来事を聞くと、我が事のように激怒して謝罪してきた。


「申し訳ありません、私がお傍を離れなければ……」


「いなくて良かったのよ。ミシェルがいたら、もしかしたら撃たれていたかもしれないもの……」


 ナゼールの熱に浮かされたような顔と、『どんな手を使ってでも』という発言を思い出し、ネージュは震えた。




 屋敷に戻り、ミシェルに手伝ってもらって就寝の準備をしたら、ようやく人心地ついた。

 しかし、ベッドに入ったものの、気持ちが(たかぶ)って眠れそうにない。


 体はひどく疲れているのに、目を閉じると、ナゼールの顔が頭の中をちらついた。


 あの男に触られたところが気持ち悪い。

 ネージュは指の型が残る腕に触れた。


 腕も、首も、バスルームで念入りに(こす)ったのに、まだ汚れが残っている気がする。


(…………)


 やっぱり駄目だ。どうしても耐えられない。

 ネージュは我慢できなくてベッドから抜け出した。


 もう一度体を洗いたい。

 だけど、こんな精神状態になっているなんて誰にも知られたくない。

 特に、心配をかけてしまったミシェルには。


 ネージュはため息をつくと、外の井戸に移動しようと思い、こっそりと部屋を抜け出した。

 しかし、廊下に出た途端、アリスティードと出くわしたのだから運が悪い。


「ネージュ……? こんな時間にどうして……?」

「眠れなくて……」


 本当の理由は言いたくなくて、ネージュは咄嗟に誤魔化した。


「アリス様こそ……」

「俺はついさっき屋敷に戻ってきたばっかりで……あっ、ネージュのせいではないので気にしないで下さい!」


 アリスティードは慌てて弁解してきた。

 寝間着にガウンという姿だが、彼の髪がまだ半乾きだった。直前まで入浴していて、部屋に戻る途中だったのかもしれない。


「気にするなと言われても、無理です……」


「では、(ねぎら)って頂けませんか? 頑張ったご褒美が欲しいです」


「ご褒美、ですか……?」


「はい。ただ、お疲れ様と言って頂けたら、それが俺にとってご褒美になります」


「えっと……遅くまでお疲れ様でした」


 どうしてこんな言葉がご褒美になるのか、ネージュには全く理解できなかったが、そう告げると、アリスティードは嬉しそうに微笑んだ。


「……実は俺も疲れが限界を超えて、かえって目が冴えてしまって眠れそうにないんです。もし良かったら、少しだけ付き合って頂けませんか?」


 私室に誘われるなんて初めてで、ネージュは目を見張る。


「あ……、嫌なら全然断ってくれていいです。疲れてるのはあなたも同じだと思うので……」


「……嫌だなんて! アリス様がいいのなら……」


 どうせベッドに戻っても眠れない。

 気を紛らわせたかったので、ネージュは彼の誘いに乗る事にした。

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