初の学校生活
カノンの初めての学校生活で、今は授業中。
今までの授業と言えば、令嬢の身だったため、家に直接専門の講師が足を運んでいた。
「(大勢の人と一緒に、同じ部屋で勉強しているのが不思議な光景ですわ。
なんだか楽しいわね。
居眠りしてる人もいれば、手紙を回しあってる人もいる。
後ろの席だといろいろ見えて面白いわね)」
カノンは授業を聞きながら、クラスの中を観察していた。
美桜の部屋にあった教科書やノートには、細かく勉強していた跡があり、カノンはそれを頼りに知識を得たので美桜と同等の学力だ。
もともとカノンは勉強ができるうえに努力家だ。
そのため授業を余裕の心持ちで受けていた。
普通の授業は難なくこなしたが、体育は美桜の体であるため、最初こそぎこちなく伸びしろがないように思えていた。
だがカノンは、もともと社交ダンスを習っていたため、体の動かし方を知っている。
カノンが少しコツをつかむと普通に体育をこなし始めた。
ちなみに今日の体育はバドミントンだ。
皆は美桜がこんなに体育ができたのかと目を見張った。
今までの美桜なら、ラリーも続かず何度か足がもつれ、転びそうになっていた。
「一ノ瀬さんすごい! 体育苦手だったのに克服したんだね! さすが、努力は勉強だけじゃなくて体育にも影響するのね! みんな~!! 一ノ瀬さんが運動できてるよ~!」
ラリーの相手をしていたクラスの女子が、大声で体育館中に伝えた。
「や、やめてくださいまし。
そんな大声で言われたら恥ずかしいではありませんか。
注目もしないでください~」
大声で皆に伝えられるとは思ってなかったカノンも、さすがに恥ずかしさで顔をラケットで隠す。
「「「顔見えてるよ~。
可愛い~」」」
カノンのその行動に、皆が可愛くも可笑しさで笑った。
こうしてチャイムがなるまで、各々カノンをからかいながらも楽しい時間を過ごした。
***
昼休み。
屋上で原さんと二人でお弁当を食べる約束をしていたカノン。
原さんが購買でご飯を買ってくるまでの間、一人で屋上で待つことになった。
場所取りのためだ。
「ここが屋上ね。
こんなところでお弁当を食べるなんて、ピクニックみたいで楽しいわね。
んーーーっ。
風が心地よくて……自由って感じね。
今までこんな風に思ったことあったかしら」
初めての屋上に、心を弾ませ腕を空に向かって伸ばし、背伸びをするカノン。
そこに、誰もいないと思っていた屋上から声が聞こえてきた。
「おい、お前! なんでこの間俺たちのたまり場に来なかったんだよ! 金持って来いって言っただろうがよ! おかげで遊べなかったんだからな!」
「そうだ! どう落とし前つけてくれんだ!? この間の金の分も倍で持ってきてもらわなきゃなぁ?!」
「し…仕方ないだろ! 家のおつかいがあったし。
……それに、そんなにお金持ってないし、できないものはできないよ!」
カノンはこっそり声のする方に近づいて覗いてみた。
物陰から聞こえた声はどうやらカツアゲのようだ。
カノンと同じ背丈くらいの、可愛い系の顔立ちの男の子が、男子生徒二人に言い詰められている。
「(あれは……同じクラスの……たしか名前は峰岸…雅……だったかしら)」
「仕方ないじゃねぇんだよ! 金ならいくらでも用意する方法あんだろ」
「そうだ! 用意する方法考えるの得意だろ! 塾に通ってる金持ちのいい子ちゃんだもんなぁ? いくらでも嘘や言い訳できんだろ!」
「そんな無茶な! 君たちの為に嘘ついたりなんて、そんなことしたくない!!」
押し問答の末にしびれを切らした男子生徒一人が、手をあげた瞬間カノンが飛び出した。
「おやめなさい!!! 男二人がかりで一人に詰め寄るなんて卑怯ですわよ! ましてや手をあげるなんて低俗のすることですわ。
お金ならあなた方が先ほど言ったように用意する方法はいくらでもあるのでしょう?
なら、貴方達が稼ぐなり正規の方法で用意しなさい。
人のお金を奪って豪遊など腐った大人の真似事ですわ。
そんな人生、つまらないですわよ?」
カノンが飛び出し、第一声を発したことで驚いた男子生徒は、峰岸君を殴らずにすんだが、話の腰を折られ、今度は怒りをカノンに向けた。