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チヲキワメン!  作者: ノートブック
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序章

「新幹線は刈り上げ。これ火成岩の覚え方な。…オレが考えたんじゃないぜ?」


 真面目にノートにメモを取る。

 ありがとう先生、また知識が増えた。



 知らないことを知りたい。



 授業なんてかったりーと思わせようとしているオレの中の悪魔が、悪態という名の槍でつっついて来ても、オレの飽くなき探究心の前にはびくともしない。

 こんなこと覚えて何になるんだ。将来何の役に立つんだ。

 壊れた悪態の月やヒを投げつけて無駄な抵抗を続けてくる。

 その問いに対するオレの答えはこうだ。


『無知は罪』。


 ある法を知らないうちに犯したとき、知らなかったは通じない。論外だ。天使の出る幕もない。

 それは法だからだ、自分に明確に不利益となるものは知っておく価値があり、自分に悪影響を及ぼさないならやはり不要ではないか、と思うかもしれない。

 いやいや、あえて授業の内容という論題に戻すが、目前のテストだとか成績だとかに直結して、目指せる高校や大学に関わるじゃないか。

 レベルの高い大学などを卒業できるかどうかが、その後の人生にどれだけの可能性を生み出すかは言わずもがな。


 それ以外で?

『その後の人生』の中では役に立たないだろって?


 んー、思うに、将来役に立つかどうか、影響があるかどうかは自分の生き方に左右されない。いや、ちょっと語弊があるか。

 ここは発想を逆転させるんだ。

 確かに、知っているだけでは意味がないかもしれない。

 重要なのは、知って、どうするかという先の部分。

 


 そう、活かす方法は自分で考え出せばいい。

 


 それが、『無知は罪』に続く言葉―『知は空虚、英知を持つは英雄』である。



***



 ここはお馴染みトーキョー。

 とは言っても、義務教育を受け終えたオレ、園地陸は、更なる知識を求め、辺鄙な村から、ニホンで一番知識が集まるであろうここに引っ越して来たばかりだ。

 今春から通うことになっている『江根川学園』に隣接する寮の自室にて絶賛荷解き中である。


 しかし、この部屋かなり広い。誰かと相部屋でもないというのに、20畳くらいはあるかもしれない。

 キッチンは広く、もちろんユニットバスではない。寝室は別にあり、こちらは同じくらいか少し狭いが、クローゼットもある。1LDKと表現するには広すぎる。

 備え付けのベッドや家具も、高級そうな雰囲気を醸し出している。ふんぞりがえって、鼻息荒くエッヘンとでも言ってくるようだ。

 どれもこれも、普通の男子高校生にあてがわれるものじゃないだろう。


 当然だが、この様な部屋が全ての寮生に平等に与えられている訳ではない。


 田舎者に立派な部屋を用意できるあたり、基本的に金持ちの子女が通うような学園ではあるが、一般家庭の生徒も受験することができる。

 それなのになぜオレがVIP扱いなのかというと、地元の中学校でたいへん優秀な成績を修め、特待生として推薦されたためだ。推薦入試なのに受けさせられた、力試し的な側面が大きい一般入試のテストでも成績がトップだった。

 特待生かつ入試で一位という快挙を経て、ここの居住権を得たのだ。

 だが、片田舎出身としては身に余る好待遇に、何かしらの裏があるのではと疑いたくなる。

 部屋から追い出されたくなければ、校長を暗殺しろ!的な指令が下されかもしれない。もしそうなったら、とりあえずご機嫌をとるように近づき、信頼を得てからブスリ。「園地、お前もか」と言わせたい。

 あれ?お前も、って誰か他にいるならオレがやらなくてもよくね?

 それは置いといて、質の高い生活に慣れてしまうと、元の生活に戻るのは難しいのだ。


 広すぎるが故に雑貨の置き場所に悩んでいると、窓の外が視界の端に映り、気づく。


「おー!あれが富士山か!」


 豪奢な部屋は最上階の角部屋であり、南向きの窓と西向きの窓がある。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()西()()()()()()()()西()()()()である。


 富士山の中腹あたりから南東に伸びる大きな川が、西に少し伸びている寮の南の海岸と合流している。

 まだ肌寒い春だからか海岸の砂浜に人の姿は殆ど見当たらず、チワワを散歩させている女性が目立つ。…夏にはたわわが戯れているかもしれない。

 川沿いには桜が並び、北の方に巨大な白い鉄橋が居を構えている。もし凄腕スナイパーが橋を進む標的を狙うとしたら、この部屋は絶好のポジションである。

「昨日来た時は夜だったから気づかなかったけど、いやー、絶景かな!」

 長旅による疲れか、昨夜は着いてソファーに倒れ込むとすぐ寝てしまったので、窓の外を見る余裕は無く、荷解きにはまるで手がついてなかった。

 入学祝いだと言わんばかりの、思いがけない活力を窓から貰い、作業の進捗度を上げていく。


 片付けに夢中になり、たくさんの本(主に漫画だが)が並んだ本棚に、荷物としての最後の1冊を入れる。

 ようやく終えた達成感を噛みしめ、伸びをしながらふと窓に目を向けると、既に日が沈もうとしていた。

「うわ、昼前には片付け始めたはずなのになー」

 本棚に視線を戻す。

 時の流れはあっと言う間だ。平均寿命80歳というこの時代に、一体どれだけの読みきれていない本が、知らないことが、世界があるのだろうか。

 思わず呟く。

「命がずっと続いたらいいのになー」

 感傷に浸りそうになるすんでのところで、我が胴から愉快な音が鳴る。

「…そう言えば、昼は食べてないな」


 昼ご飯を食べ損ねた後悔をやつあたりするかのごとく、ジャガイモ・玉ねぎ・にんじんを裸に剥いたり、ウインナーに股を広げさせたり、挙げ句の果てには茹で釜の刑&全身粉まみれの刑にしたりと、食材をいじめる。今夜はカレーである。

「うん。我ながら上出来かな」

 腹を満たす。

 カレーは作り置きの献立として非常に優秀である。

 これで明日の朝少し寝坊しても、朝ご飯を作る手間は省けているので、食いっぱぐれはしないだろう。


 そう、明日は入学式だ。

 入試で成績トップであれば、本来なら学生代表としての挨拶のため、多少は練習するのかもしれない。

 だが、学園からそんなことをしろとの通達は来ていない。

 であれば、後はゆっくり明日を迎えるだけ。

 学園生活に様々な期待を膨らませながら、今日に別れを告げた。



***



 学園の敷地内にあるホールで、入学式の予定が消化されていく。

「それでは、在校生代表挨拶。代表、江根川光蘭くん」

「はい」

 金髪の美青年が壇上に現れ、語り出す。

「3年A組所属、江根川光矢、生徒会長だ。

 望んでこの学園に来たあたり既に知っているだろうが、この学園は通常の高等学校とは違い、養成学校としての色が強い。地上に漂う不可視なる力、『エネス』。これを用いた戦闘技術を磨くのがこの学園の最たる目的である。

 しかし、もちろん高等学校としての教育も実施される。一般的にエネスの制御は難しいとされているのに、これらを両立するのは生半可なものではない。弛まぬ努力が不可欠だ。

 だが棍を詰めすぎると逆に空回りするかもしれない。適度に休み、遊ぶことも重要だ。バランス良く、と言うのが先輩としての助言だ。

 この学園でどのような結果を出すためにどのように過ごすか。諸君の、この学園の生徒としての、恥じなし、悔いなしの健闘に期待している。」

 話し終えた生徒会長に拍手が送られる。

 そう、ここは養成学校である。

 単に知識を得るだけなら他の学校でも良かったが、ここを選んだ理由はその点も大きい。


「ありがとうございました。続いて、新入生代表挨拶。「!?」

 代表、松空凛さん」

「はい」

 代表挨拶あるのかよ!と思わず叫びそうになった矢先、知らない名前が呼ばれる。成績トップはオレの筈だが…。

 などと考えていると、最前席の端に座るオレとは反対の端から、濃い緑色の髪を腰まで伸ばした女子が立ち上がり、中央へ歩いていく。

 歩く姿は百合の花、という言葉が似合ういかにもお嬢様らしい立ち居振る舞いをしている。ニホン人女性としては比較的背が高い。大きい。

 …成る程。同率1位か。2人に挨拶させる訳にもいかないから、田舎者じゃなくてお嬢様が選ばれたってわけね。

 校長暗殺指令を受けるもう1人はこの人だったか。いや、お嬢様ならそもそも寮生じゃないかも?

 寮で過ごしてまだ2日も経っていないというのに、かなり気に入ってしまったな。

 おっと、学園にハブられた悲しみから目を逸らしていると、女子の挨拶を聞き漏らしてしまった。まあ、いいか。

 

 式もこれで終わりだ。

 さあ、後はホームルームだな。

 人との出会いは、知識を得る機会でもある。

 どんな奴がいるのか、楽しみだ。


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