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紫眼のヴァレンティーナ  作者: 吉田 春
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エピローグ

 ヴィノルバの港町で、ハイナーは船長に金を握らせて自分とカリグラ公爵、それにマクシミリアンを船に乗せた。行き先は隣国らしい。

 部屋は空いていないので、貨物室の隅に入り込ませてもらった。暗い部屋にマントを敷き、その上にカリグラ公爵はあぐらをかいて座っていた。ハイナーは立って出入り口を警戒している。

「いいのか、ハイナー。この先、どうなるか分からんぞ」

「公爵様、私はあなたとマクシミリアン殿下に忠誠を誓いました。私の主人はあなた方以外にはおりません」

 貴族の出でもない平民出身のハイナーは、カリグラ公爵に取り立ててもらったからこそ今の地位にある。その恩を忘れたことは一度もなかった。たとえこの二人の行き先が地獄だとしても、ついていくと決めたのはもうずっと前のことだ。

「私は精霊との契約があまりにも不安定で綱渡りだというのに、それにいつまでも目をつぶっていることに腹が立ったのだ。いつまでも無知で人任せな兄王にも腹が立った。ただそれだけの理由だ」

 カリグラ公爵は胸の内をただこぼした。ハイナーは答えることなく、黙ってそれを聞いた。

「父上、行商人から果物を買いました。少し召し上がってください」

 マクシミリアンはカリグラに向かってよく熟した黄色の果物を差し出した。母親がいなくなり、マクシミリアンは甲斐甲斐しく父の面倒を見るようになった。そんな息子を見て、カリグラ公爵が息子のために地位を求めるようになったのだろう。

「いつもすまない、マクシミリアン。本当に、どうしようもない父親だ」

「父上は私の誇りです。そのようなことは言わずに、召し上がってください」

 その黄色い果物は、カリグラ公爵の妻が生きている時に、よく目の前で皮をむいてくれた果物だった。うっすらと目に涙を滲ませて、彼は皮ごと齧り付いた。果汁がポタポタと伝って、マントに点々と染みを作る。

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