ヒロインが男になりまして
悪役令嬢たる私の悪業に関して、公の場で語る者はそういない。
時代や立場が違えば魔女とも言われかねない。人の血が通っていないと実の親にさえ言わしめた私、エミリー・ブルノンヴェル。その私は今、何をどう間違えたのか何度目かのタイムリープの後、誰もが認める貞淑な令嬢となっていた。
否、人の道、道理、倫理の観点から見れば正しいことしかしていない。令嬢としてのマナーを身につけ、学問を修め、芸術にも造詣が深い。伯爵か家の婚約者とも仲睦まじく、誰に対してもにこやかに朗らかに対応している。
産まれてこの方、虫も殺したことがなく血など見たらその場で卒倒する。
そう、私は完璧な令嬢となったのである。
――それだけであれば、この話はここで終わりだ。
全てが丸く収まり大団円。不幸になるヒロインもそれを取り巻くイケメンたちもいない。
しかしそうは問屋が卸さないのが現実だ。
私の行動如何では八つ裂きにされ血肉を城下のあちこちにバラ撒かれる予定だったヒロイン。哀れで可憐なヒロインであるジェーンは、手を下すまでもなくこの世から消え去っていた。
私たちが出会うまでに彼女が亡くなってしまったわけではない。人1人が消えてしまうタイムリープは今まで経験がないのだから。
彼女は――男になっていた。