こいつ大丈夫か
『いや、そっちの都合でしょ。俺やる気ないし』
召喚に応じた勇者は、疲れ切った目をして頭をかきながらそんな言葉を吐き捨てた。
この世界は、魔法もありいろんな種族がいる。私はそれを普通に思っていた。この世界に伝わる歴史の中で、異世界から来る勇者様は格好良くて、勇敢で、どんな悪事に対しても正義を貫き真っ向から戦うと聞いている。
なのに・・・・・・
「何なのこいつ!!!!!!」
私の叫び声にも動じないその顔もむかつく。ここの世界のこと何も知らないくせに。ちなみに私は一応お姫様。この国のね。
『だって、そっちが勝手に喚びだしておいて何の謝罪もなく、力を貸せっておかしいだろ。戦い怖いし、痛いのも無理』
「こっちは兵も投じてなんとかやっている状況なのに、よくそんなこと言えるね!?一応勇者の血縁だから召喚されたんだけど!!?」
『マジか・・・じゃあゴローとかが喚びだされれば良かったのに』
「ゴローって誰だよ!!!!!」
のうのうとあくびを決めてるこいつを殴り飛ばしたい。私からしたらそっちの世界のことだって他人事なんだからどうだっていい。私の愛した土地が、民達が苦しんでいるのにここにいるだけなんて。
「今のこの国の状況だけでも知っておきなさい」
『え・・・めんど』
「口開くな!」
この世界には魔王という者がいる。しかしそれは数百年も前のことであって、おとぎ話の一つとなっていたのだ。しかし二年前、各地域で不作や魔物の増加が見られた。その調査をすべきだったのに、私たちは怠ってしまった。この幸せな時代にそんなことがあるわけないと。
だけど起こってしまった。最悪の事態が・・・大地は枯れ果て、太陽は雲に覆われる日が多くなり、今では月に一度日が拝めれば良い方・・・そのうえ、他の国々が魔物達に襲撃されてしまい・・・
『長い』
「最後まで聞きなさいよ」
『はぁ』
「そんな状況に心を痛めた王である父上は床に伏せってしまい、今は私が・・・」
『あ、国の代表なの?頑張ってね』
「軽い!!」
こいつはとうとう周りに立っている私の兵達に近づき鎧やら武器やらを眺め始めた。
あまりに自由な行動にこちらが呆れてしまう。
違う。そうじゃない。
興味を持つべき対象がもっとあるでしょ。私も決して不細工ではないし、この世界は魅力的なんじゃないの?普通困ってる人がいたら助ける者じゃないの?
いや、もっと丁寧に接しよう・・・助けてもらうのはこちらなんだから。
「どうして、お力を貸して頂けないのでしょう」
『疲れてるんだ・・・』
「は?」
『毎日夜遅くまで仕事・・・・・・趣味もなく、たまに開く小説は存在しないファンタジーばかりの虚無。日に日に削られる体力や精神を代償にして得た金は、お前達が召喚したせいでなくなったも同然・・・俺のお金・・・。もう何もしたくない』
「金銭に関しては・・・申し訳なく思いますが、こちらも切羽詰まった状況でして・・・」
『そうだよな・・・うん・・・お金・・・・・・』
「・・・・・・」
何でそんなにお金に執着してんの?え?世界よりお金?というか、働き方がうちの文官達と同じタイプ・・・かわいそう・・・。同情しちゃ駄目だってわかっていてもこの状況は・・・。
落ち込んでいる勇者の肩に手を置いて慰めたり涙ながらに見つめたりしている文官・参謀達・・・こっちが悪いことしてるみたいじゃないか。
「ゴホン!・・・こちらの要求に応えてくださるのであれば、それなりの報償を用意しますが」
『またここでも仕事・・・』
「絶望しているところ悪いけど、この状況だと自分が死ぬのも時間の問題です」
『なんで』
「貴方は勇者。そして魔王がいる。召喚する際に大きな光が国全体を覆ったから敵陣にバレています。見つけ出されたら・・・」
『最悪だぁぁぁああああああ』
やる以外の選択肢ねぇじゃねぇか!!!!!!と号泣しながら叫ぶ勇者。
仕方ない。それが喚ばれた者の運命でしかないので、諦めて力を貸してもらおう。それがいい。そうしよう。その代わり、このかわいそうな勇者様にできることを必要な限りしてあげよう。
私は召喚されたこのかわいそうな勇者の前に立ち、声を大きくはりあげた。
「此度の召喚に応じた者!!貴殿をこの国の重要人物とし、世界を救う勇者としてここに宣言します!!!!」
『・・・ふぁい』
「よろしくお願いしますね」
力なくも、返事をしてくれた勇者様はふてくされた様子で、私の差し伸べた手を取ったのだった。