【少女誘拐】
ー第1章ー 【少女誘拐】
11月18日
待ちに待ったこの日が来た。空は苛つくほどの晴天。
眩い日差しが僕の体を照らす。
何だか天から呼ばれている気分だ。
僕は今日、死ぬ。
今まで頑張って生きてきた。
最後の晩餐にと、コンビニで買った大好きな
カップラーメンを持ち、
僕は慣れないスキップをふんで、家に向かっていた。
するとそこに、まつげが長く、ショートボブの
優等生っぽい可憐な中学生くらいの少女が哀しげな表情をして立っていた。
スキップを見られて恥ずかしかった僕は、逃げるようにその場を離れようとした。
そんな僕に向かって少女は言った。
「お兄さん、私を誘拐してよ」
何を言ってるんだこいつ…
前言撤回、優等生じゃないな。
僕は、気付かないふりをした。
何度も俺を追いかけて、同じ言葉を繰り返す少女。
諦めて、僕は話を聞くことにした。
「なんで僕に?君は誰?」
それでも少女は言い続ける。
「お兄さん、私を誘拐してよ」
僕は戸惑いながら、人目も気になるので、
とりあえず人通りの少ない路地へと、連れてった。
「まず、名前を教えて?君は誰?」
少女は口を噤んだ。口を開けば、
「私を誘拐してよ」と言う。
「そろっと警察呼ぶぞ?お前は誰だ」
少しキレ気味に言った。
少女もそれを察したのだろう。やっと名前を口にした。
「………及川 希空」
「君は何で誘拐されたいの?」
僕は素朴な疑問を少女に聞いた。
「お母さんもお父さんも大嫌い。学校も全然楽しくない。私が居なくなれば、きっとみんな幸せなの。だから…
お願い…します、私を誘拐して!!」
少女は本気のようだった。
僕はどうせ死ぬつもりだし、
人生最後に少女の頼みを聞くことに決め、
少女を家に連れてった。
僕の家は、1LDKの古びた古風な家。
死んだおじいちゃんが僕に託してくれた大事な家だ。
障子には幼い時に僕が開けた穴だらけ。
じいちゃんは死ぬ直前まで、
楽しそうにその話をしてたっけな。
思い出に浸っていた僕をよそに、少女は僕の家を見て、
「素敵な家…」と呟いた。
「これで、お兄さんは、この誘拐事件の共犯だよ。
私のことは希空って呼んでね!よろしく!」
少女………希空は、明るい声で
すごく楽しそうにそう言った。
「逃げようとしたって、もう手遅れだ。最後まで希空の
わがままに付き合うよ。」
こうして、僕と希空の新たな人生が幕を開けたのだ。