第9話 先生の言うことは絶対!(2)
午後には、お茶淹れの達人メイドのサラに時間をもらって指導されたり、街を散策した。夕方には与えられた自室に戻り、そこからルーム〈病室〉に移動した。一度起きた気配があったので、様子を見に来たのだ。今は寝ているが順調だな。予想より早いくらいだ。
この後は髪でも切ろう。誰にも言われたことはないが、俺の髪は滅茶苦茶長い。普段は纏めているが、地面に着きそうなくらいだ。不老なのに髪は伸びる。髪にも魔力が宿る関係だろうと思っているが、呪いの人形みたいだ。…人形ではないが呪われていたんだった。ドアを〈工房〉に繋げて移動する。道具を揃えて、髪紐を解くとバサッと広がった。おや?ドアの方に視線を向けると隙間から覗いている者がいた。さっき、起こしちゃったかなとか考えながら声を掛ける。
「目が覚めたかい?体におかしなところはあるかな?」
「えっと…、お腹が空き過ぎて起きたみたい、…です。」
「あはは、それもそうか。スープを用意しよう。でも、髪を切るまで待っていてほしい。」
「…………………………ぁぁ。」
手早く髪を切り始めると、か細い悲鳴を上げ、何故か絶望しているような顔をしていた。そして、床に落ちた髪を見つめている。なんか、やりにくいなぁ…。切り終わると髪を回収した。素材としても便利なので、無駄がない。
「お待たせ。〈ダイニング〉に移動するから付いて来て。」
ドアを開けば、そこはもうダイニングだ。振り返れば、かなりビックリしている顔が見れた。先程まで〈病室〉だったのだから当然だ。その反応が楽しい。イタズラが成功した気分だ。席に座らせ、野菜スープを出す。作り置きの物だが、出来た時点で固定化してあるので、いつでも作り立てを食べられる。一杯目を完食して、皿の底を見つめている。まだ食べたそうだ。
「まだあるから遠慮しなくていいよ。でも、食べ過ぎないように。それとゆっくりね。食べ終わったら休むように。部屋は自由に使っていいから明日の午後、話をしよう。」
「はい、分かりました。」
〈ダイニング〉を出て自室に戻り、ワンルームマンションのような間取りで他の部屋も繋いでいく。〈病室〉が浮いた存在になっているなぁ。あれ?使い方とか分かるのか?全く説明してないや。でも、邪魔しちゃ悪い気もしたんだ。1日くらい何とかなるだろう。
次の日はフィリスも授業に参加していたが、正に教師と生徒といった距離感。う~ん、遠い。髪の事を聞かれたので、雑談のつもりで魔道具の素材にもなるので伸ばしていたんです。と言うと、ソフィアが凄い食いついて来て大変だった。…さて、少し休憩したら行きますか。〈病室〉にいるようなので、ノックしてから入る。ベッドに寝ていたが、俺が来るとすかさず立ち上がった。
「問題ないと思うけど、急に動いて大丈夫?」
「はい!問題ありません、神様!!」
「……………カミサマ、ジャナイヨ。落ち着いて話せる場所に移動しよう。」
なんか、おかしなことを言い出した。頭は打ってないはずなんだが…、ていうか昨日より変だ。丁寧な言葉遣いだと余計勘違いされそうだから、素で話そう。
「俺の名前はユーリ。状況は分かるか?問題なければ両親の元に帰そう。」
「はい!なんとなく。でも、あた、わたしには帰る場所はもうないん、です。」
一生懸命、敬語で話そうとしている。無理しなくていいと伝え、可能な範囲で詳しく話すように促すと事の始まりから話し出した。元々はあの街の外れに家族3人で住んでいたそうだ。ところが、1年前に盗賊に襲われて、両親は殺されてしまった。家も燃やされたとか。おお…。しばらくは知り合いの家にお世話になっていたが、半年前にこのままではいけないと、逃げる際に母親に持たされたお金を握りしめて、街に出て来たそうだ。だが、上手くいかなかった。お金は、あっという間に底を着き、何日も食べられずに死を待つ状態だった。ふらふら歩いていたら、気が付いた時には目の前に魔物がいたということらしい。
「そうか、大変だったんだな。今後についてはもう少し時間を置いてから決めよう。」
「いえ、これも試練だったんですね?起きた時に気付いたけど、あたしは生まれ変わったんだって!」
「だから!神様じゃないと言ってるだろうがぁぁぁ!!」
「ごめんなさい、ユーリ様!ユーリ様の言う通り、生まれ変わってないです。…でも、記念として新しい名前を付けてほしいです。」
「……………」
本当に分かっているのか?しかも、名前を付けてくれとか、ちゃっかりしている。逞しいとも言えるか。きっと新しい人生を始めるといったニュアンスかもしれない。
「分かったよ。そうだなぁ、将来有名な魔法師になるかもしれないからぁ…。」
「あたしが魔法師ですか?」
「ああ、魔物に襲われたのも潜在魔力量が原因だぞ。」
子供や魔法を使わない人は魔力が体に現れにくいが、潜在的に魔力を内包している。この子の場合は特に多い。魔物から見ても上等だったに違いない。そうだ、ステータスを詳しく見てから名前を付けてもいいな。彼女の頭に手を乗せると緊張して硬直していた。
「適正を調べているだけだから、楽にしていてくれ。」
「…は、はぃ。」
火魔法の適正がかなり高い。…因果なものだな。ん?ステータスのスキル欄に隠しスキルを発見した。しかし、何なのか分からない。詳しく見るには、もっと深く入り込まないと無理だな。
「よし!名前を決めたぞ。ミネルヴァだ。魔術を司る女神から付けた。火魔法の適正が高いから火神から付けようとも考えたが、皮肉過ぎだから止めた。」
「女神の名前をあたしに…あたしが女神に…。」
相変わらず言ってることが、ぶっ飛んでるぜ…。隠しスキルの説明をしたいのに中々進まない。
「おーい、聞いてる?名前元に戻すよ?」
「ご、ごめんなさい。なんですか?」
「ステータスに隠しスキルがあったから詳しく調べてもいいかな?」
「あたしのステータスには出てないですよ?」
「アクセス権が低いからね。まあ、調べるかどうかは次に言うことを良く考えてから決めてくれ。」
調べるにあたって、やってもらいたいことがあるのだが、言いづらい。変な方向に行きそうな気がする。…止めるか?だが、意を決して言った。
「服を脱いでくれ。」
「了解です!」