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俺を神様と呼ぶんじゃありません  作者: 白蛇ちゆき
第1章 彷徨う者達
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第7話 旅は道連れ、つまり強制連行(2)

 アクティー領は北と西が海に面しているので、漁業が盛んである。また、温泉もあるので観光地としても有名だ。西の海、フラルゴ大湾は綺麗な半円様になっている。なんでも、大昔に隕石が落下したとか、地下にある熱エネルギーが爆発したとかなんとか。温泉の源泉があるのは、その熱エネルギーが残ったからという話もある。海・魚・温泉とオールシーズン楽しめる場所とあって賑わっている。綺麗な街並み、住民の顔は穏やかで、着ている服も襤褸ではない。生活水準は高そうだ。


 「いい街だなぁ。」

 「ええ、この領地の娘として誇らしくあります。」


 駅馬車乗り場に降り立った俺が呟いた言葉に、フィリスが反応した。実家を褒められて嬉しいのだろう。その微笑みは心からのもので、初めて見た。プライスレス。しかし、旅の終わりを告げているようにも感じた。


 「さて、迎えを呼ぶなら私の仕事はここまでになりますが、どうするのですか?」

 「連絡をした方がいいのでしょうが、このまま歩いて行きましょう。コレがあるので疲れませんし、報酬を払うためにも屋敷に寄ってもらわないと困ります。」

 「楽しく旅が出来たので報酬は、それで十分ですよ。それよりも、ちゃんと返してくださいよ。」

 「イヤです!」


 ここで別れましょうという含みは無視された。ここに来て、エルザが積極的に言う。フィリスを放置してますよ。つーか、指輪は俺が貸した物だから!即答で断るなよ!まあ、指輪はどっちでもいいが、ローブは絶対回収させてもらう。どうやら御宅訪問するのは避けられないらしい。嫌だなぁ。報酬貰ったらさっさと帰ればいいか。


 「じゃ、早く行きましょうか。日が暮れてから宿を探したくないですからね。」

 「泊まっていけば良いではないですか?」

 「フィリス殿にお伺いを立てなくていいのですか?」

 「…あっ!えっと…昨日話して場合によっては泊まってもらうのもいいのではと…」

 「なら、余計ご実家に連絡した方がよろしいのでは?」

 「…いいから!行きますよ!」


 もう、隠す気がないのか?今まで頑張っていたので、こちらからくことはしないでおこう。先を歩き出したエルザを追い掛ける。坂を上り、小高い丘に着くと大きな屋敷が見えた。2人は心持ち早足になっていた。俺はゆっくり歩くながら景色を楽しむ。頂上からの景色は絶景だ。綺麗な街並みと一面に広がる海。昔、旅行ガイドブックで見たシチリアを思い出した。実際に行ったことはないが、雰囲気を味わえた。時間を忘れて眺めていたようで、メイドに呼ばれた。


 「お待たせしました。中へどうぞ。」


 案内に従って行くと客間に通された。そこで出された紅茶を一口飲んで目を見開いた。う、うまい!淹れ方の技術か?今すぐ教えを乞いたいが、紅茶が冷めてはもったいないと最後の一滴まで味わった。


 「おかわりはいかがですか?」

 「是非。それとあなたの名前も教えて下さい。」

 「ユーリさんは軟派な方ですね。」


 メイドとやり取りしているとドアが開き、中に入ってきた人物に言われてしまった。上質で上品な格好のエルザだった。フィリスはいないようだ。


 「違いますよ。紅茶の淹れ方を教えて欲しかっただけです。」

 「おや?その反応は知っていましたね?」

 「普通気付きますよ。むしろ隠す気がないのかと思っていたくらいです。この領地に入ってからは酷かったですね。」

 「ゴホン!では、改めて自己紹介させて頂きます。ソフィア・アクティー。アクティー子爵家の長女です。」


 ソフィアが向かいに座り、話し始めた。フィリスは人見知りなので、疲れて部屋で休んでいるそうだ。姉が隣にいるのに頑張ってたもんなぁ。挨拶に来ない事を謝られたが、仕方ない気がする。というか、俺のミスなんだよなぁ…。途中、執事が来てローブ・指輪・報酬の入った袋を置いて行った。ほお~、返す気はあったのか。用は済んだので、お暇しよう。


 「ところで、ユーリさんは事情を聞かないのですか?」

 「聞いてほしいのですか?正直興味ないですよ。2人を最初に見た時は厄介事を感じました。」


 つい、口を滑らせてしまった。空気が一変する。ソフィアの目は鋭くなり、俺の言葉の真偽を見抜こうとしているようだ。


 「それは私達のことを最初から知っていたということですか?」

 「…ここは正直に話しましょう。私はあなた達のことは知りませんでした。一目見て、魔力の波長が似ているので姉妹だと分かりました。でも、明らかに姉であるあなたがメイドの格好をしているですから、誰でも厄介事だと思いますよ。」


 これで、納得してくれるかな?とソフィアを見ると「魔力…波長…」と、うわ言のように呟いている。もしもし?ちゃんと聞いてくれました?すると、ハッとしたようにこちらを真っすぐ見つめる。


 「あ、あの!魔力の波長が分かるんですか?どういう風に見えるのですか?それとも感じるものですか?―――――」


 興奮して、矢継ぎ早に質問してきた。かなりビックリして声が出なかったよ。さっきまでの空気はボコボコにされて消えてしまった。


 「交渉して指輪を頂こうと思いましたが、止めました。…ユーリさん!あなたを家庭教師として雇います!!」

 「……………え?」


 急展開に付いて行けず、やっと絞り出した言葉だった。

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