第6話 旅は道連れ、つまり強制連行(1)
部屋を出る前に気絶しているナニカに別れの一言を告げる。
「甲斐性のない男はモテないぞ。」
おっと、もう男じゃないんだった。ちょっと、うっかりしてしまったが、そのまま窓を開けて飛び出す。
屋根伝いに跳び、空から灯りの消えた街を見下ろす。誰もいない路地裏に着地すると空間の歪みを見つける。懐かしいなぁ、魔物の領域にいた頃を思い出す。亜空間に生息するバルギアと言う魔物がいて、突然襲って来たり、亜空間領域に引きずり込まれたりした。奴らは時間や場所を考慮してくれないし、狡猾だったりするので、本気で殲滅した。おかげで、空間の歪み・亜空間の察知・干渉は上達した。
それを踏まえて見ると原因はバルギアで間違いないだろう。俺の知ってるバルギアと比べるとかなり弱そうだ。街中で、こそこそ生きていたのかもしれないが、見つけ次第、即駆除だ。俺は空間の歪みをこじ開けて亜空間に飛び込む。やはり、人が捕らわれていたようで、子供がぐったりしていた。素早く子供を奪還すると、ドラゴンから拝借したドランゴンブレスを空間収納から解き放って、バルギアを消滅させた。脱出すると最後の作業に取り掛かる。このままでは亜空間に人が落ちる可能性があるので、亜空間を潰し、歪みを正す。
さて、子供の方だが、かなり衰弱している。魔力が吸われ過ぎていて、危険な状態だ。それに加えて、痩せ細っている所を見ると元々栄養失調だったのだろう。魔力は生命維持に欠かせないもの。枯渇すると気持ち悪くなったり、気絶するのは安全装置が働いているからだ。だが、限度を超えると最悪死ぬ。どこかの治療院に預けても助からないだろう。なら俺がやるしかない。落ち着いて治療出来る場所に移動するため、空間魔法・ルームを使う。この魔法は文字通り、亜空間に部屋を作る物。目の前に扉が現れ、独りでに開く。子供を抱えて、中に入る。
ルームはいくつか作ってあるが、今回選んだのは病室を模したものだ。白で覆われた部屋は清潔感で満ち、窓から見える木々が映える。葉擦れの音や緑から零れる光、時折聞こえる小鳥の地鳴き、揺れるカーテンは清涼感がある。まあ、部屋の外は用意してないので、ただの演出なのだが。ベッドに子供を寝かせると早速治療に取り掛かる。と言っても魔力を充填するだけだ。
さっきは治療院では無理と言ったのに、随分簡単じゃないかと思うだろう。それには理由があって、イメージとしては輸血が近い。魔力は万能だが、合わない物を注いでも身体には定着しないで、霧散するだけ。患者に意識があれば別かもしれないが…。その点、俺の魔力コントロールは四、五段階、上のレベルに到達していると自負している。操作・変換・変質・同調―――――等々、容易いものだ。同質の魔力で満たしたので、もう心配ないが、ついでに身体つきを健康体にしておく。目が覚めて、少しずつ食事を摂れば前より元気になるだろう。
しかし、3日は起きないかもしれない。明日には早くから街を出ることになっているので、連れて行くしかなさそうだ。この街にはいつでも瞬間移動で戻って来られるので、問題ないだろう。夜明けにはまだ早いので、作業部屋にしているルームに移動して時間を潰した。
翌朝、ホテルに行くと彼女達はすでにロビーにいた。依頼人を待たせてはいけないとばかりに早足で近づく。
「おはようございます。もしかして、待たせてしまいましたか?」
「おはようございます。少し早く起きたので、ここでくつろいでいただけですよ。ユーリさんもゆっくり休めましたか?」
「はい、おかげさまで。街も楽しめました。」
「あっ、繁華街に行ったんですか?羽目を外さないようにと言ったじゃないですか!」
フィリスと挨拶を交わし、エルザに誤解されたので適当に誤魔化して、駅馬車乗り場に向かうと乗客だろう人が集まっていた。3台の馬車が並んでいて、10人程ずつ乗れるようだ。出発すると門を出て、次の街に向け北上する。旅は順調そのもの。だが、俺の気持ちは最悪だった。気分を害されたわけではなく、気分が悪くなっただけだ。まさか、こんな所に罠があったなんて!…いや、単に人に酔っただけなのだが。耐えて、顔に出さなかったのは褒めてほしい。
「大丈夫ですか?ユーリさんが乗り物に弱いとは思いませんでした。」
午後を少し回った頃には次の街に着いた。アクティー領には街中を走る駅馬車で向かうが、その前に軽く昼食を摂ろうという話をしているとエルザに心配された。はて?ばれないように目を瞑り、意識を別のことに割いていたはずだが、気付かれてしまったのか?
「乗り物に酔うことはありませんよ。ちなみに、どうしてそう思ったのですか?」
「何度話し掛けても返事がないですし、寝ているのかと思いましたが、それも違うようなので、もしかしたらと…」
「それは失礼をしました。恥ずかしながら、人酔いしまして…」
どうやら、それがいけなかったようだ。護衛失格だな。とりあえず昼食は辞退し、休むことにした。彼女達が戻って来たので、駅馬車に向かう。俺の足取りが重いのは許してほしい。
俺はまた駅馬車に揺られていた。先程よりはマシになったので、外の景色を眺めていると海が見えてきた。どうやら、海沿いを通るようだ。北に位置している為、爽やかな気候だ。これから夏本番だが、ここは過ごしやすいかもしれない。海水浴なんかもいいな。そんな想像をしている内に目的地であるアクティー領に入ったのだった。