094 盗賊さん、召喚する。
「これ、魔力と魔素で造ったゴーレムって感じだね」
「その認識で概ねあってるよ。ただ『召喚術師』の天職で扱えるのは、現存する生物に限られるみたいだけどね」
「サク姉は、召喚獣をどう操ってるの。魔力的な繋がりもあまり感じられないけど」
「なんで言ったらいいのかな。私が【召喚】した時点で、天職の効果によって召喚獣は仮初の生命を得てるみたいなんだよね。だから『召喚術師』の私は天職を介して意思疎通が可能みたい」
その関係性は、ボクとプルに近いものがあった。
「だとすると仮初の生命を与えるものが必要になるんだろうけど、それって天職由来のものだよね。だったらボクは傀儡と同じように召喚獣を自力で操るしかなさそうだね」
「それなんだけど、ヒロちゃん。私が【召喚】した召喚獣内部の魔力の流れを調べてみてくれない。なにかヒントが得られるかも知れないし。魔物に対してスキルで干渉出来たヒロちゃんなら、出来ないことはないんじゃないかな」
「サク姉の魔力抵抗が召喚獣に反映されてるわけじゃないの」
「召喚獣って魔法生物だし、意思疎通が可能なだけで私からは独立した存在だよ」
「そういうことなら、とりあえず試してみるよ」
ボクはサク姉の周囲を旋回するコウモリを魔力で包み込み、内部に魔力を浸透させようと念じる。最初こそ多少の抵抗感はあったけれど、ダンジョンで魔物に対して【奪取】を仕掛けたときと同程度の抵抗だった。
魔力で満たした召喚獣を掌握するでもなく、ただただ自由に動き回らせた。その中で動作と連動していない精密な魔力の流れをコウモリの中枢に感じ取った。
それが生命を偽装しているモノなのかを確かめるように、ボクは自分が【召喚】したコウモリの死骸に対して、その魔力の流れを再現した核を内部に発生させた。すると、ぴくりともしなかったコウモリが身じろぎした。だが、それも一瞬のことですぐに動かなくなり、コウモリそのものも砕け散るようにして消滅してしまった。
「やっぱりスキルで擬似的な生命体を生み出すには、魔力的なコストが見合わないみたいだね。その辺りは天職が、コストを踏み倒してるのかな。でも、不可能ではないみたいだね」
「召喚獣の強度は【召喚】時に費やした魔力に比例するからね。追加で魔力を供給しても強制的な操作権や感覚共有出来るだけで、召喚獣の強化は出来ないから気を付けてね」
「今度は、その辺りも踏まえてやってみるよ」
大量の魔力を消費して、それに見合った体格の魔獣の【召喚】を試みる。ボクが構造を把握している生物は、自身の手で解体したグラスボアくらいなので、それを形造るように魔力を展開し、中核となる擬似生命たらしめる魔力の流れを内部に生み出した。
それに合わせて【召喚】を行使すると、プルが狩ったのと同等の大きさをしたグラスボアが出現した。
【召喚】されたグラスボアは、興奮した様子で地面を後脚でザッザッと蹴り、威嚇行動を取っていた。その対象は明らかにボクで、グラスボアがボクの制御下にないのは目に見えて明らかだった。
「サク姉、これって【召喚】に失敗したってことかな」
「えぇ、たぶん。自分の実力に見合わない【召喚】をするとたまにこういうことあるからね」
「やっぱり、天職を偽ってのスキル行使はリスクを伴うみたいだね」
ボクは突進して来たグラスボアに対して魔力を流し込み、操作権を強制的に奪った。
「サク姉。ボクの魔力を使って、サク姉が召喚することって可能かな」
「どうかな。そういうことって試したことないし、天職の知識にもそういったものはないからね」
「ボクが召喚獣の外装部分を担当するから、サク姉は擬似生命を植え付けるのを担当してくれないかな」
そう告げながら、ボクは操作権を奪ったグラスボア内部に生じさせた擬似生命を与える魔力の流れを止めた。すると鼻息荒く反抗的な態度を見せていたグラスボアは、全身から力を失ったように、どしんと地面に倒れ伏した。
「それに対してやればいいの?」
「うん。お願い」
ボクの頼みに応じたサク姉は、ボクが【召喚】したグラスボアに対して『召喚術師』のスキルを行使した。それは成功したのか、倒れ伏していたグラスボアは何事もなかったかのように立ち上がった。ただ今度はボクに対して威嚇行動を取ることもなく、随分とおとなしくしていた。
「成功したと思っていいのかな?」
「そうみたいね。ヒロちゃんが【召喚】した子に対して再度【召喚】を施したら召喚獣が私のものとして制御権が上書きされたみたい。天職が作用した結果なのかな」
「ボクの召喚獣の魔力的な抵抗は、どうだった?」
「あまり感じられなかったよ。ヒロちゃんが魔結晶で魔力を無個性化したからなのかな」
「ありそうな話だね。それで、その召喚獣の【送還】はサク姉の方でも可能なのかな」
「ちょっと待って……うん、行けそう。どうする?」
「やってみてくれる」
「じゃあ、やるよ」
そう応じたサク姉はグラスボアに向けて手をかざした。するとグラスボアは、色を失うように透けていき、やがて空気に溶け入るように消えてしまった。




